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2016年12月から17年3月まで、韓国は朴槿惠大統領(当時)の弾劾をめぐり、左右両派が激しい対立をした。互いに、相手陣営に向けて「暴力革命を起こす」などと威嚇しあう姿は、醜いものだった。抗議の自殺者も出るなど騒然とした情勢は、日本まで緊迫感を伝えた。感情的にいきり立った韓国国民は、日本人の想像もできない行動をするのだ。

 

韓国軍は、こういう騒乱一歩手前の状況を見て、国家転覆という事態にならぬように、「文書」だけは書いて「心の準備」をしていた。今その文書の存在が公になって、「戒厳令を準備していたのでないか」と問題視されている。文大統領が、捜査命令を出したから騒ぎが大きくなっている。

 

文政権トップでは、1980年の光州事件(軍の戒厳令拡大に反対する市民が、軍と衝突した事件)で火焔瓶を投げつけた、元学生運動家の多数が大統領府に秘書官として加わっている。こういう事情があって、文大統領が軍による一片の文書を重視しているもの。

 

『朝鮮日報』(7月11日付)は、「弾劾による国家転覆の危機に韓国軍はどう対応すべきか」とだいする社説を掲載した。

 

朴槿恵(パク・クネ)大統領=当時=の弾劾判決目前の昨年3月、国軍機務司令部が「戦時戒厳と合捜業務方案」という題の文書を作成していたことについて、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10日、独立捜査団を結成して捜査するよう、訪問先のインドで特別指示した」

 

「軍事独裁を経験した韓国人の記憶の中で、『戒厳』は否定的な印象しかない。しかし、この文書は弾劾判決直前の状況で、文字通り究極の最悪の状況への対処方法を検討したものだ。弾劾判決目前の昨年3月、賛成派も反対派もそれぞれ数十万人がソウル市内中心部で対峙(たいじ)し、憲法裁判所まで行進して、自身が望む結果を出せと圧力を加えるようなデモをした。31日の集会では警察が600台を超えるバスでバリケードを築き、双方の衝突を防がなければならないほどだった。弾劾判決の結果がどちらになっても、国が混乱するのではないかと多くの人々が懸念した」

 

当時の緊迫した状況は、韓国メディアが悲痛な思いで報じていた。万一の事態に備える軍の「文書」ぐらいあっても不思議はあるまい。もし、左右両派が激突して、死者が出る騒ぎとなれば一層、事態は悪化するのだ。それを防ぐには、騒乱に備える研究をしておくことは許されるのでなかろうか。文大統領は「好機到来」とばかり、この問題を拡大させて政治的に利用する魂胆であろう。