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中国の近代化は、都市人口比率の増加であると言い続けてきた。それが突然、真逆の政策を言い出した。「農村へのUターン」である。農村出身者は農村へ帰ろうというのだ。今までの政策はどうなるのか。そういう説明は一切ない。

 

一つの理由は、都市部経済の行き詰まりである。これまで、「農民工」として農村出身者が都市部での労働力不足を補ってきた。だが、その必要性もなくなってきた。だから、都市部に農民工が留まっていることは不都合になっている。客観的には、こういう背景が考えられる。現に、都市部の失業問題が無視できなくなっているのだ。

 

中国の国家発展改革委員会(発改委)は7月25日の定例会見で、米国との貿易摩擦が国内労働市場に不透明感をもたらしていると認めた。ただ、大規模な失業につながるような事態にはさせないと表明したが、具体案は不明である。中国は2018年における都市部の「調査に基づく失業率」を5.5%以内、別の公的指標である「登録失業率」を4.5%以内とすることを目指している。つまり、4.5~5.5%の失業率に抑えたいという「決意表明」である。この失業統計に農民工は入っていない。都市部の失業問題が深刻な状態では、「農民工」は、さらに厳しい事態であろう。

 

『ロイター』(7月19日付)は、「農村に帰ろう、中国Uターン戦略の見えない勝算」と題する記事を掲載した。

 

(1)「高齢化が進む中国の農村経済は、多くが小規模農家や零細産業で成り立っており、生産性低下に直面している。代わりとなる新たな成長エンジンは現れていない。人材流出があまりにも進展したことを危惧した中国の習近平国家主席は、いまや才能ある人材が地方にUターンするよう呼び掛けている。都市化が繁栄への入り口だと位置づけている中国では、これまで考えられなかった動きだ」

 

農村部では、満足に義務教育を終えた人も少ないという、徹底した「差別化」が行なわれてきた。今さら、これからは「農村の時代」と言っても若い世代は信用するはずがない。建国以来、経済成長=脱農村の政策を踏襲してきた国である。農村の疲弊は、日本の比ではない。中国の訪日観光客が驚くのは、日本の農村の生活水従と都会のそれが遜色ないことだ。中国の政策は間違えていた。

 

(2)「これは、約5億7700万人が暮らす農村地方の状況を改善することで、社会不安の芽を摘み、消費を活性化させ、大都市の成長をコントロールしたいという、中国共産党の願いを反映している。また、習主席が昨年10月に打ち出した『農村振興戦略』の一環でもあると、中国国家発展改革委員会(NDRC)のアドバイザーを務める馬暁河氏は語る。農村地帯のインフラを改善し、近代農業を発展させ、『数兆元(数十兆円)』もの投資を呼び込む構想だという」

 

ここでも、農村のインフラ投資によってGDPを押上げるという狙いが透けて見える。都市のインフラ投資が終わったので、今度は農村でインフラ投資という狙いであれば、この農村Uターン運動は失敗するだろう。農民戸籍の撤廃という古くて新しい問題を棚上げする狙いも隠されていると思われる。

 

(3)「この戦略の発表以来、いくつかの地方政府が、起業家や高い技術力を持つ労働者、大卒者、そして『プロの近代農業者』などを、ルーツがある農村に呼び戻すためのインセンティブに取り組むことを約束した。中部河南省は、起業するために同省の農村地帯に移住する人を対象に、60億元(約995億円)を今年支出する。こうした「地方起業家」20万人を誘致したい考えだ。東風村など500以上の小さな村々に囲まれた湖南省双峰県をロイター取材陣が訪れると、地方へのUターンを奨励する活動が活発に行われていた」

 

農村Uターンには、食糧自給率の向上目的もある。将来、米中軍事衝突が起こって、米国からの食糧輸入杜絶に備える目的もあるのだろう。習氏の発想法には、覇権争いという事態が頭にインプットされているに違いない。習氏は戦争が好きなのだろう。