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政府が、7月31日に発表した経済対策は、中身がなく株式市場を困惑させている。再び不動産バブルに火を付けて、住宅購入を煽りたくても限界に達した。可処分所得に対する家計債務比率が天井圏に達しているためだ。世界一貯蓄好きとされた中国だが、一転して過剰な債務を負う羽目に追い込まれている。際限ない住宅価格の上昇によって、庶民の財布は空からになった。

 

こういう最悪事態で、米中貿易戦争に突入した。中国国内の現実重視の経済派は、米国との抜き差しならぬ対立に持ち込んだ習氏への不満を隠そうとしなくなっている。人民日報社説が、これら経済重視派へ反撃するという異常事態である。中国経済の実態が、これだけ混乱していることの証明だ。

 

経済を映す鏡とさせる株式市場は、方向が定まらない状況が続いている。

 

『ブルームバーグ』(8月10日付)は、「トレーダーの苦悩映す中国株、7日連続で日中変動率が1%以上」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国株の変動がこれほど激しい状態は、ここ数年なかった。6兆ドル(約665兆円)規模の市場が底を打ったのか、トレーダーは判断しあぐねている。貿易戦争やデフォルト(債務不履行)増加、金融刺激策やバリュエーション(株価評価)低下と強弱材料が交錯する中、上海総合指数は9日まで7営業日連続で1%以上の日中変動率を記録した。これほど大きな変動が続くのは中国株が急落した2015年以来のことだ。同指数の日中の乱高下は2年6カ月ぶりの激しさとなり、中国株市場の時価総額は同7営業日の間、毎日少なくとも970億ドル変動した」

相場を空気代わりに呼吸しているトレーダーが、中国株の行方を判断しかねているという。経済対策発表後の7営業日間、株価の日中変動率が1%以上という荒れ相場になっている。疑心暗鬼の状況だから、誰も先行きに自信が持てず、下げては買い、上げては売るという繰り返しなのだ。中国指導部も自信がなくなっているから、互いに相手を批判する状態に落込んでいるに違いない。

 

中国経済の本質的な矛楯は、土地国有制を「悪用」しつづけてきたことだ。地方財政制度の財源を確立せず、歳入の3分の1以上を土地使用権売却益で賄うという異常事態を続けてきた。「土」を「金」(カネ)に変える錬金術を編み出したのだ。

 

かつて、英国で中央銀行(イングランド銀行)を設立する時に、通貨発行の基準を何にするかが議論された。その際、「土地銀行案」が提示された。土地を担保に通貨を発行する案だ。これは、インフレを招くとして却下され、商業活動に随伴する商業手形の再割引が選ばれた。

 

中国は、この却下された「土地銀行案」に近い形で、地方政府の財源をつくらせた。まさに、土地が「打ち出の小槌」となった。地方政府は勝手に地価を引上げるので、それが不動産バブルを生んだ根因である。不動産バブルによる住宅価格は、庶民の財布を空にするまで高騰して、ついに限界を迎えた。

 

地方政府は、地価を値上がりさせなければ、土地売却益が財源に使えない。インフラ投資の資金調達が不都合を生じる。このように見ると、中国経済は不動産価格上昇によって回ってきたといえる。その頼りの不動産価格は、上げるに上げられない状況になっている。中国経済が混迷するのは当然といえよう。

 

『ロイター』(8月2日付)は、「中国の個人消費、低調な所得の伸びと住宅販売に圧迫される」と題する記事を掲載した。

 

(2)「中国国家発展改革委員会(発改委)の幹部は2日、所得の伸び鈍化と低調な住宅販売が国内個人消費の伸びを抑えているとの見解を示した。発改委総合司巡視員の劉宇南氏は記者会見で、今年上半期に住宅販売の伸びが前年同期の16.1%から3.3%に鈍化したことについて、家具といった住宅関連品目向け支出が打撃を受けたと説明した。また『家計所得の伸び鈍化も一部の住宅入居者の購買力を抑制した可能性がある』と述べた」

 

中国政府は、家計の高貯蓄率を過大評価してきた。その家計が、限度を超える住宅ローン残高を抱えてしまい、もはや消費支出の余力を失っている。これは、中国経済にとっては重大な問題である。企業・地方政府がともに過剰債務を抱えており、その上、家計まで債務で身動きできない状態に陥ったのだ。万事休すと言う状況であろう。