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盤石の政治基盤を擁するはずの習近平氏が、6月以降の急激な金融引締めによって、政治的に傷を負っているのでないかと指摘され始めている。

 

習氏は、序列5位の政治局常務委の王滬寧(ワン・フーリン)氏から強い影響を受けたのでないか。今、そう取り沙汰されている。王氏は、イデオロギーとプロパガンダ(宣伝)の担当だ。「習思想」なるものを発案し、習氏の神格化を促進していた人物として知られる。そのキーマンが、ここ1ヶ月の動静が報じられていない。王氏の失脚説が流れている背景には、米中貿易戦争によって、中国経済が大きな影響を受けていることが上げられる。王氏が、習氏に「米国覇権挑戦論」を吹き込んだのでないか。そういう話にまで発展するのだ

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月15日付)は、「中国債務問題、習氏の政治的な傷になるか? 」と題する記事を掲載した。

 

(1)「8月14日発表された7月の同国経済指標が映し出したのは、中国の景気鈍化が深まっている状況だ。特に投資の伸び率は2000年以降で最低にとどまった。経済の窮状が健在化する兆しとして、中国の政治支配層の間に不満が見え隠れするようになった。経済成長と債務をいかに管理すべきかを巡り、財政省と中国人民銀行(中央銀行)のいさかいも明るみに出た」

 

7月の景気指標は、固定資産投資の鈍化と小売り売上高の停滞を告げるものである。特に投資の伸び率は、2000年以降で最低にとどまった。この原因はどこにあるか。習氏の「米国なにするものぞ」という空元気がもたらした、強い金融引締めによる負の影響と見るのが順当だ。この裏に、米国衰退説を主張している王氏がいる。習氏と王氏は、肝胆相照らす「国粋主義者」である。

 

(2)「こうした意見の対立は通例、秘密裏に処理されるものだ。国務院(内閣に相当)はこれまで経済政策をほぼ習氏に委ねていたが、いつになく積極的に力強い成長を呼びかけている。そして中国の短期借入金利は、ここに来て2016年中盤の水準まで低下した。これは金融緩和にシフトする明確な兆候だ」

 

国務院が、積極的に成長政策を呼びかけているという。この裏には李克強首相がようやく、経済政策の権限を取り戻した結果かも知れない。もともと、経済政策は首相の専管事項とされていた。習氏が、それを横取りして経済運営の実権をかすめた。それが、元の状態に戻ったのか。これが事実とすれば、「大変革」である。

 

(3)「中国が借り入れを減らし、より効率的に投資すべきであるのは誰もが認めるところだ。だとしても、銀行からの融資が難しい小規模な民間企業への影響を考えると、債券市場とシャドーバンキング(影の銀行)を同時に締め付けるのは常に危険と隣り合わせだ。今年、損失が表面化するのを注視していた地方官僚は、恐らくおじけづくあまり、率直に声を上げられなかったのだろう。その結果、民間企業への貸し渋りが急増。前例のない数の社債デフォルト(債務不履行)が発生している」

 

非金融部門貸出は、4月の増加額を絞った上に、5月以降に急減させた。これが、中国経済に混乱をもたらしている。次のパラグラフにあるように4月以降で1.5兆元も減っている。

 

(4)「非金融部門貸出残高(社債、シャドーバンキングを含む)は4月以降だけで1.5兆元(約24兆円)余り減少し、過去10年間で最も急激な落ち込みとなった。政策担当者は今や、金融・財政政策を緩和することで、この2年間の債務圧縮の動きを巻き戻すよりほかに道がないだろう」

 

(5)「習氏が、米国の貿易問題への決意を見誤ったこと――そして同時に国内の債務への締め付けが厳しすぎること――が政治的に傷つけたと思われる。まだ明確でないのはその傷がどのくらい深いかだ。いずれにせよ、政治的な駆け引きの季節が始まりそうな気配だ。習氏の敵対勢力が再び自己主張し始めたからだ。それが間近に迫る景気悪化に対処する政策担当者の能力を奪う可能性がある。緩和の兆しが明確になり始めたのを背景に、一部のアナリストは中国株に強気になっている。だが目先の政治の不透明さを考えると、予想以上の波乱に見舞われてもおかしくない」

 

このパラグラフでは、慎重な言葉のなかに中国の政治情勢が不透明になっていることを示唆している。習氏の敵対勢力が、再び自己主張し始めたからだ。この勢力が、経済重視派であることは事実。中国経済の落ち込みが激しくなれば、政治闘争が始まる可能性を示唆している。中国は、一枚岩でなかった。