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米中貿易戦争で、中国国内がいかに慌てているか。今回の中国商務省次官の訪米は、苦肉の策でひねり出した案である。あれだけ「大言壮語」しながら、「トランプ砲」を一発浴びればこの騒ぎである。「アヘン戦争」(1840~42年)の時もこうだった。英国と交渉することなく、英国艦船に夜襲をかけて失敗し、結局、香港を割譲させられた。相手の戦力を冷静に分析せずに闘う悪弊は、178年前と同じである。中国の対外戦略に進歩はない。

 

歴史が古い、国土が広い、人口が世界一である。これが、中国の強さの証明と考えているようだ。それは無知蒙昧(むちもうまい)の類いである。この分りきったことが分からず、国粋主義者が跋扈する。アヘン戦争時と現在も、状況認識において全く変わらないのだ。この民族は、時代認識において発展しないのだろうか。

『日本経済新聞 電子版』(8月16日付)は、「中国、対米交渉膠着に焦り、下旬に商務次官が訪米」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国が米国との貿易協議の膠着に焦っている。国内景気が減速し、貿易戦争への不安から人民元と株価が急落しているからだ。16日には王受文商務次官が8月下旬に訪米して事務レベル協議に臨むと公表したが、商務次官の外遊公表は異例。対米交渉に前向きな姿勢をみせ、市場を安心させる思惑があったようだ。ただ、米国は対中強硬姿勢を強めており、閣僚級による協議再開は見通せていない」

 

中国は、焦るときに相手国を批判する。北朝鮮と同じパターンである。『人民日報』(8月16日付)で、「米国民に苦痛を与える『米国第一主義』」と題する論説を掲載した。米国批判である。中国の批判する「米国第一主義」は、「中国第一主義」への反応として出てきたものだ。中国得意の弁証法では、例の「正・反・合」という流れの中で理解すれば分かりやすいはず。「米国第一主義」の原因をつくったのは「中国第一主義」である。

 

(2)「中国商務省が王次官の訪米を公表したのは元の取引開始直前の16日午前9時27分。情報が伝わるにつれ、人民元は対ドルで急騰。下落で始まっていた上海株も一時切り返した。中国当局は資本流出を招きかねない急激な元安に懸念を深めていたようだ。元の対ドル相場は15日の夜間市場で急落。1ドル=6.93元台と15年8月の元切り下げ後の安値(6.95元)に接近。14日公表の7月の経済統計も軒並み悪化した」

 

いつも「大言壮語」している中国が、外国為替市場でじりじりと追い詰められてきた。完璧な資本規制しいているから資金流出は起こらない。そう言ってと胸を張ってきたのだ。現実には、人民元が売られてくると居ても立ってもいられなくなっている。外貨準備高3兆1000億ドルは「見せ金」だ。IMFが計算する外貨準備高モデルでは、2兆8000億ドルが防御ラインとなっている。ここまで来たら、現行の管理型変動相場制を止めて、先進国並の自由変動相場制へ移行すべきである。そんなに力んで、世界一の外貨準備高を自慢するメリットよりも、デメリットの方がはるかに大きくなっている。経常収支の黒字が減ってきた理由は、無理な外貨準備高政策がもたらした欠陥である。メンツを捨てて、今少し楽になるべきだ。

 

(3)「商務次官の外遊は通常公表しない。5月に劉鶴副首相率いる交渉団が訪米した際も、数日前から王次官が現地入りし事前協議に臨んだが発表はなかった。今回の公表は市場を安心させる『助け舟』だった可能性がある。公表後に元は1ドル=6.87元台まで反発、元売りはいったん止まった。この時期の公表は習近平指導部と引退した長老らが国政の重要課題を話し合う『北戴河会議』も関係したようだ。同会議は15日までに終わったもようで、対米政策が最大の議題だったとされる」

 

何ごとも隠し立てしている中国が、商務次官の訪米予定まで発表して、市場ムードの悪化を防ごうとしてきた。これまでと違った対応だけに、中国の窮状が分るのだ。中国政府の打てる手は、政府高官の訪米計画を発表する位しかないことに同情したい。