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昨年12月、中国の経済改革をたたえる博物館が深圳にオープンした。その博物館は半年後の今年6月、リニューアルして8月再オープンした。内容はがらりと変わっていたという。深圳といえば、鄧小平の改革開放と深い縁がある土地だ。ここにつくられた博物館だから、誰でも展示の主役は鄧小平の偉業を讃える博物館と思って来館するであろう。

 

ところが、8月のリニューアル後の主役が、習近平に変わっていた。習氏の側近が、こういう根回しをしたのだろうが、行き過ぎも甚だしい。国家主席の経験はまだ5年余。中国経済をバブルまみれにした張本人が、歴史的評価に耐えられるか分らないはずである。それが、あたかも鄧小平を超えたような扱いになった。中国の退廃的な政治情勢が伝わってくるような話だ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月22日付)は、「習氏を礼賛、歴史を書換える中国の博物館」と題する記事を掲載した。

 

(1)「昨年12月、中国の経済改革をたたえる博物館が当地にオープンした時、来館者は壮大なレリーフに迎えられた。中国を繁栄に導いた『改革開放』に着手したとして共産党史に名を残す、鄧小平の地方視察を描いた彫刻作品だった。6月初め、この博物館は「更新作業」中だとして閉鎖されていた。8月の再開時にはレリーフは消えており、地方の発展を映す動画のスクリーンと、習近平国家主席の言葉が書かれたベージュのパネルに代わっていた」

 

(2)「中国共産党は改革開放40周年を祝っている。中国を貧困国から世界第2位の経済大国に変貌させたこの政策の立役者は鄧小平だ。しかし、国の組織は習氏を祭り上げてその経済運営を大げさに宣伝する一方、共産党史で描かれる鄧の功績を小さく見せようとしている」

 

(3)「中国の経済改革を専門とするハーバード大学のジュリアン・ジェワーツ氏は「神話作りが進んでいる」と述べた。中国の将来を描く物語を形作るなかで、習氏は『中国の過去に対する貢献度を誇張している』という。2012年遅くに権力を握って以来、習氏は自身の物語を実行するために法律やメディアを駆使し、公式の記録を書き換えるなど、国の歴史を自身の政策に当てはめようとしてきた。当局者は教科書を改訂し、博物館を改修して習氏の政策を刻み付けた。党が認めた『英雄と殉死者』を中傷した場合の罰則を定めた新しい法律もある」

 

(4)「歴史家によれば、狙いは習氏の権力強化だ。その手段として、『国威の回復に向け、強く鋭敏な指導者に率いられた共産党が中国国民の先頭に立つ』という習氏の筋書きを固めようとしているという」

 

習氏が、「中国の夢」を語り国威発揚を最大限に行なっている裏には、習近平を永遠の功績者として記録させたい。そういう野望を持つにいたったのだろう。それには、鄧小平の存在は邪魔なのだ。博物館では鄧小平の扱いを小さくして、自らの展示を広げさせたにちがいない。

 

人間誰でも、そういう願望はあるとしても、習近平はその度合いが強すぎる。彼は、不動産バブル経済を意図的につくり出し、自らの権力基盤強化に利用した。これは、公私混同であって、一種の「汚職」に近い行為であろう。このように、自らの栄達に国家経済を利用したことは、共産党流に言えば「国家反逆罪」に当ると思われる。歴史の評価の定まらない時点で、早くも「英雄」扱い。中国社会の価値基準が極めて疑わしい。こんな社会が、世界覇権を狙うこと自体おこがましいのだ。