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習近平氏は、政敵を倒す嗅覚は優れているが、経済面では不動産バブルを放置・拡大させて失敗した。彼は、国有企業を中国経済の核に据える点で間違いもしている。国有企業が政府の支援を受けるので、経営が本質的に甘くなる根本的な弱点を抱えているからだ。

 

胡錦濤政権までは、「民進国退」という基本原則を守ってきた。民営企業を優先して国有企業は徐々に後退させるという構想である。ところが、習近平政権では逆のことが起こった。「国進民退」である。国有企業を核にして民営企業を補佐役にするというもの。習氏の一存で方向転換した。この大転換には、「紅二代」とされる共産党古参幹部の二代目との約束があったとされる。

 

習氏は、国家主席就任の正式決定から一ヶ月ほど、公の席に姿を現さなかったことがある。実は、その間に「紅二代」のメンバー一人一人に会い、協力を取り付けていたという。習氏も「紅二代」である。その時、国有企業に利権を持つ「紅二代」が、国有企業の「主流復帰」を要請したのでないかと見られる。この「密約」によって、「民進国退」路線はあっさりを捨てられた。

 

中国政治は、全て密室で決まっている。経済政策は「刺身のツマ」程度の扱いであろう。先進国の経済政策とは本質的に異なるのだ。「民進国退」があっさり捨てられ、国有企業が、中国経済の主流を担う誤った政策を採用したのは、習氏とその取り巻きの「紅二代」である。「国民の人権と尊厳を守る」と仰々しく言っているが、それはただの宣伝文句に過ぎない。

 

『日本経済新聞』(8月22日付)は、「中国、国有企業の優遇転換を」と題する記事を掲載した。筆者は、アバディーン・スタンダード・インベストメンツのシニアエコノミスト、アレキサンダー・ウルフ氏である。

 

(1)「中国では、国有企業が政府などから様々な支援を受けることができる。一方、(支援を受けにくい)民営企業は概して、国有企業より効率性が高いといえる。政府はIT(情報技術)のようなニューエコノミーの分野の企業に成長をけん引させたいと考えており、革新的な民営企業が先頭に立つべきだろう」

 

中国政府が、国有企業を隠れ蓑にして補助金を与えていることは周知のこと。現在、米中貿易戦争で米国から厳しい批判を浴びている点だ。こういう「甘やかし」が、経営効率を劣ったままにしている理由である。

 

(2)「ところが、利益率や資産負債比率などの指標をみると、民営企業は弱体化しているようにみえる。当局は、銀行を介さずに資金をやり取りするシャドーバンキング(影の銀行)を締め付けた。融資が減り企業全体で債務不履行が増えたのは、驚くことではない。しかし、民営企業が債務不履行となったのが目を引く」

 

中国経済の最大の弱点は、金融機構が整備されていないことだ。国有銀行は、国有企業の取引銀行である。民営企業には、影の銀行ぐらいしかない融資しないという跛行的な状態に置かれている。最近、劉鶴副首相が「中小企業の融資拡充が必要」と強調した裏で、金融機構の未整備という欠陥を露呈している。日本の金融機構の整備と比べて、月とスッポンの違いだ。

 

(3)「こうした現象は、民営企業にとって不利に働く要因によると考えられる。まず、事業環境の悪化が利益の伸びを低下させ、損失を膨らませた。次に、影の銀行への締め付けは、民営企業が成長するための融資の重要な供給源を奪い去った。国有銀行の多くは国有企業への融資を好む。民営企業は、国有企業には与えられる傾向のある、地方政府や銀行による低利融資などの支援も得にくい。民営企業の様々な不利益は、中国の金融システムの構造的な欠陥を明らかにするとともに、成長へのリスクも浮き彫りにする」

 

習氏は、影の銀行が不動産融資の供給先と見て、ここを締め付ければ不動産バブルが鎮火する。そう早合点していた。影の銀行は、不動産融資のほかに民営企業一般の融資窓口であった。それに気付かなかったという考えられない政策ミスを犯した。影の銀行の融資を絞ったことが、民営企業のデフォルト多発の理由である。

 

(4)「民営企業が不利益を被る傾向は、多国籍企業の中国での投資や事業にも影響を与えている。外国企業は、事業の効率化や生産性向上などの面でも中国の急成長に貢献してきた。だが、国有企業を優遇する政策は、外国企業を中国以外へ投資したいと思わせるかもしれない。国有企業の健全化が民営企業の犠牲のうえに進むなら、称賛には値しない。政策決定者は生産の割り当てよりも市場の機能を働かせ、民営企業の信用を高める必要がある。民営企業が国有企業と競争できないなら、中国の長期的な成長力は損なわれるだろう」

 

習氏は、市場機構を毛嫌いしている。彼のような国粋主義者には、市場機構が「西洋の化け物」に見えるのだ。市場機構の下では、権力者の命令を受け入れず、合理性のあるものしか生存できない仕組みである。習氏にとっては、このメカニズムが理解不可能なのだ。