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習近平氏は当初、米中貿易戦争を楽観していた節が窺える。これを反映して、5~7月にかけ非金融貸出(社債+影の銀行貸出)を急速に絞った結果、企業の資金繰りに大きな影響を及ぼしている。デフォルトの多発がそれを物語っている。

 

中国銀行保険監督管理委員会(注:日本の金融庁)の当局者は23日、「中国の銀行セクターが新たに大規模な不良資産へのエクスポージャーにさらされていると警告した。また、銀行セクターは現在のところ、より大きな規模で融資の拡大を実施することに困難を抱えているとの認識を示した」(『ロイター』8月23日付)。

 

金融当局者が、「新たに大規模な不良資産へのエクスポージャー(リスク)にさらされている」と発言するのは、相当な危機レベルに達している証拠だ。通常なら、このような重大な事実は隠すもの。だが、もはや隠しきれなくなった、とも読めるのだ。

 

これを反映して、中国政府は各地方政府に調査団を派遣して地方経済の実態調査に乗り出している。「中国国務院(内閣に相当)は、主要政策の実施状況を調べるために国内各地に31の調査団を派遣した。調査団は各省で10~12日間にわたり、面談や事前連絡なしでの企業訪問などを通じた調査を行う予定」(『ロイター』8月22日付)という緊迫した雰囲気を伝えている。

 

『大紀元』(8月23日付)は、「中国金融学者、貿易戦を2カ月内に解決しないと経済崩壊モードに突入」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米中貿易戦の激化で中国株式市場が低迷し、対ドルでの人民元相場が急落した。賀江兵氏は、2カ月後に控える米国の中間選挙後、中国経済が崩壊モードに進むとみている。「与野両党のどちらが勝っても、トランプ政権が引き続き対中貿易制裁を進めていく」。民主党が勝つ場合、党内の親中派がトランプ政権の対中政策にブレーキをかけるよう、中国は働きかけるとみられる。しかし、対中問題において、与野党は歩調を合わせている。同氏は『民主党も中国に対して警戒感を強めている。米国では、今や親中派議員には票が集まらない』と指摘する。『選挙後、貿易戦による票への影響などの懸念材料がなくなる。トランプ氏は中国にこれ以上の圧力をかけていくだろう』と中国がこの2ヶ月の間に貿易摩擦を解決する必要があると述べた」

 

中国は、11月の米国中間選挙まで凌げば、民主党が勝利を収めて、トランプ大統領に対中強硬路線の転換を求めるのでないかと期待している。それは、間違いである。米議会は与野党ともに対中強硬策で一致している。習氏の「米国打倒論」が厳しい反感を受けているからだ。

 

(2)「今年6月、賀江兵氏は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)を通じて、中国経済のミンスキー・モーメントを警告する評論を発表した。同氏は『ミンスキー・モーメントがやってきた。(株安・元安という)市場の激しい反応から見れば、中国経済のバブル崩壊はすでに始まった』と警鐘を鳴らした。賀氏は、2カ月以内に貿易戦の打開策がなく、米政府がより強力な制裁措置を行えば、中国経済のバブルが崩壊モードに突入するとの見解を示した。米政府は7月と8月23日に、合計500億ドル相当の中国輸入品に対して追加関税を課した。『この影響で、バブルがほとんど見られない中国株式市場まで下落した。貿易戦が続くと、深刻な住宅バブル、債務問題、人民元の過剰供給による金融バブルは次々と崩壊する』と見る」

 

米国は、中間選挙が終われば選挙への影響を考える必要がなくなるので、思い切った中国強硬策に出てくる。中国は、その前に妥協案を用意しないと、「中国経済のバブルが崩壊モードに突入する」と読む。すでに株価の下落が起こっている。また債券デフォルトが多発している。この危機的状況を放置していると、悲観人気が一段と高まり、中古住宅相場の下落に飛び火すれば、全面的な資産価格下落の「ミンスキー・モーメント」へ直結する。

 

(3)「賀氏は、中間選挙後、米政府による対中貿易制裁の強化で、中国国内のインフレ圧力が一段強まると懸念する。同氏は、インフレ圧力が『中国経済が崩壊モードに進む』要因の1つだとした。世界最大の食糧輸入国である中国では、大豆価格が急騰すれば、家畜の飼料価格や大豆関連製品の値上がりを招く。他の輸入農産品、燃料についても同じだ。インフレの対策は、中央銀行による利上げ実施だ。賀氏によると、景気鈍化が進む中国で利上げを実施すると、すでに高い法人税に頭を抱える企業が次々と経営破綻に追い込まれ、実体経済は現状より一層冷え込む。一方で、『当局は、企業を救済する資金力がないうえ、莫大な地方政府の債務を抱えている』という」

 

中国は、米産大豆に関税をかけたので、ブラジル産大豆にプレミアムがつき価格が跳ね上がっている。これが、中国国内の豚肉の値上がりに拍車をかける。実は中国で、豚やイノシシに感染するアフリカ豚コレラ(ASF)の発生が拡大している。中国農業農村部によると、今月1日、中国遼寧省瀋陽の養豚場で1例目が確認された後、このほど河北省と江蘇省でもASFが発生した。米誌サイエンス(8月21日付)は、ASFは中国東北部の4つの省で確認されたと報じた。すでに4億3000万頭以上の豚が感染したという。この問題は、いずれ大きな社会問題になろう。

 

こうして、豚肉価格値上がり条件は複数生じている。国内物価全般に波及することになると、金利引き上げという最悪事態を迎える。これによって、「ミンスキー・モーメント」を招く恐れが強くなる。