a1380_001494_m

トランプ大統領の「米国第一」は随分と誤解されている。関税を引上げるなど、通商面で強硬策をとっているからだ。これが、保護主義として世界中の批判を浴びる原因となった。中国は、この虚をついて「中国は自由貿易の原則を守る」と宣伝して、世界のジャーナリズムから拍手喝采を浴びた。

 

習近平氏は、中国の発言が世界に受け入れられている。こう誤解したことが、中国を米中貿易戦争で強気にさせた理由である。「米国に代って新しい経済のリーダーになれる」。そう思い上った習氏は、6月の共産党最高幹部の会議で「米国に徹底抗戦する」と宣言するにいたった。

 

先進国による米国批判は口先のこと。これまでの中国が、WTO(世界貿易機関)ルール破りをしてきた点は、先刻承知であるからだ。先進国が、掟破りの常習犯である中国と共闘を組むはずがない。習氏は、先進国が同じ価値観で結ばれていることを忘れていたのだ。迂闊と言えば迂闊、勉強不足と言えば、まさに世界情勢を見誤った。習氏は、「徹底抗戦」など口にしてならない言葉を発し、共産党内部からも強い批判をあびることになった。

 

習氏に向けられる批判は、トランプ発言の真意をくみ取ろうという動きになっている。「米国第一」は、「中国第一」によって引き起こされた面が大きいからだ。米国歴代政権は、中国のWTO違反を見逃してきた。中国経済が成熟すれば、市場経済国へシフトしてくるだろうという甘い期待を持っていた。それ故、WTO違反も鷹揚に構えていたのだ。

 

5年前、習氏が国家主席になるに及んで状況は一変した。習氏の本質が国粋主義者であり、領土拡張主義者であることが明らかになったのだ。市場経済を否定し、国有企業中心の産業構造を推進する統制経済論者であることを鮮明にした。こうなると、「米国第一」によって、「中国第一」へ対抗せざるを得なくさせたのだ。オバマ前大統領が、TPP(環太平洋経済連携協定)を推進して、中国を世界市場から切り離す策に出た理由もここにあった。トランプ氏だけが、対中国戦略に着手したのではない。

 

以上の点を頭に入れて、トランプ大統領の真意がどこにあるかを見ておきたい。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月26日付)で、「ポンペオ国務長官、トランプ政権を語る」と題する記事を掲載した。

 

(1)「ドナルド・トランプ大統領は経済・外交体制を弱体化していると非難されているが、ポンペオ氏によるとその多くは第2次世界大戦後に発展したものだ。当時、そうした体制は『米国の理にかなっていた』とポンペオ氏は話す。だが冷戦後の時代になり地政学的な競争が再燃するなか、『トランプ氏はリセットの必要性を適切に読み取ってきたと思う』という。トランプ氏は国際的な制度や同盟を疑い、その多くはもはや米国に見返りをもたらさないと考えている。ポンペオ氏によると、『トランプ氏が私たちのチームに指針を示す時、彼の疑問は常に“その仕組みは米国にどう影響するか”だ』。トランプ氏の関心が向くのは、『ある規則が過去に米国へどう影響したか』ではなく、それが『2018年とそれ以降の』米国の力をいかに強めるかだ」

 

トランプ氏は、理詰めで秩序だって語ることが少なく、直感でものをいう印象が強い。だが、その基礎には、これからの米国が直面する課題解決が念頭にある。実は、この問題解決手法に、米国哲学の「プラグマティズム」が基礎にあると思う。つまり、「思考の働きは、疑念という刺激によって生じ、信念が得られたときに停止する」。トランプ氏が、過去をリセットするのは、まさに哲学的な思考に倣っている。本人は、それを上手く説明せずに、直感で喋っている印象を与え、誤解を受けて損をするのだ。

 

(2)「ポンペオ氏は、米国が確たる主張と共に柔軟な姿勢をもって中国とロシアの政府に対応すべきだと話す。米中については、無政府主義的な争いではなく、規則を制定し実行するような関係が望ましいという。ポンペオ氏は中国について、『公正かつ互恵的な条件で貿易をしていない。知的財産権の侵害や略奪的な経済行動を取っている』と語る。中国との対立激化を避けるには、米中が互いの長期的な国益を理解する必要がありそうだ。米国は『今日は関税問題』、明日は『中国が軍事拠点化を決めた島』に集中していれば良いのではない。両国がゼロサム(ゲーム)に陥る状況を避けるべく、規則に基づいた体制の構築を目指さなくてはならない」

 

トランプ氏が、中国へ要望しているのは、公正かつ互恵的な条件での貿易。知的財産権の侵害や略奪的な経済行動をしないことである。これは全て、WTOのルールである。中国は、このルールさえ守れば良いわけで、米国とあえて争う必要もないのだ。それを守らずに、「徹底抗戦」など発言すること自体、米中貿易戦争の本質を理解していない証拠である。