a0006_001964_m

夢の新都市計画である「雄安新区」構想が、発表されたのは昨年4月1日。エプリルフールと重なって、「大法螺」でないかと疑われるほどの広大な計画である。

 

北京から南に車で2時間ほどの河北省保定市に、習近平国家主席は、この一帯で新たなハイテク産業の中心地「雄安新区」(2000平方キロ)を造ることを決めた。人口は200万人以上。最先端のテクノロジー企業や研究機関を集め、世界トップレベルの交通機関を整備する計画だという。この計画を聞きつけた全土の不動産屋が、「雄安新区」へ殺到。地価が急上昇する騒ぎを演じた。政府は、すぐに不動産売買を禁止したほど。

 

あれから1年強たった現在、現地はどうなっているのか。地元の中小企業は工場閉鎖を命じられ約200人が失業を余儀なくされた。完成は2035年。17年後である。無論、工事など始まるはずもない。先ず、住民にしわ寄せが行っている。共産主義に見られる庶民を苦しめる政治の見本が、「雄安新区」に見られるという。

 

『ロイター』(8月25日付)は、「習主席肝煎りの雄安新区建設、住民には悩みの種

と題する記事を掲載した。

 

(1)「開発地域は果樹園やハスの花で知られるのどかな場所だが、現地の人々は既存工場の閉鎖や雇用の喪失を嘆き、ゴールドラッシュは終わったと話す。習主席が新区構想を打ち出した2017年4月以降、現地当局が新たな大通りや国営企業のオフィス建設用地確保のために、織物工場やプラスチック工場を閉鎖したのだ」

 

田園色豊かなこの地域が、世界最先端のスマート・シティへ変貌するという。電車と自動車(全自動運転車)は地下を走る。地上は、バスとショッピングを楽しむ人たちが、車の往来を気にせず楽しく行き交う。総工費は2兆元という。だが、地元の住民は、ここで生活することが許されるのか分らない。それにふさわしい職業を要求されるからだ。

 

(2)「投資家たちは習主席肝煎りのプロジェクトに敏感に反応し、不動産の購入やレストラン、ショップの開店に動いた。しかし不動産の購入はすぐに禁止され、彼らは中国でも全ての開発事業が異次元のスピードで進むわけではないということを悟った。住民は中央政府の動きを待つしかなく、地元経済は中ぶらりんの状態に陥っている。雄安新区の開発区域である容城県のショッピングモールでコーヒーショップを営むチャー・ヨンメイ氏は、『広告、建設、ビッグデータなど、あらゆる業種の人々が去ってしまった。彼らは投資をして、お金を失った』と述べた」

 

計画が発表されたので、すぐにでも工事が始まると、一攫千金組が集まってきた。だが、不動産売買を禁じられたので、最初に大金をはたいて買った不動産の転売が不可能になった。しかも竣工は17年後。それまでは買った資産が「塩漬け」の運命だ。「あらゆる業種の人々が去ってしまった。彼らは投資をしてお金を失った」。2035年まで元気でいられる保証はない。おかしいやら気の毒やら、不思議な感情に襲われる。

 

(3)「工場の閉鎖によって村の住民500人のうち200人が職を失ってしまった。プラスチック工場のオーナーであるジン・ユンホア氏にとっても、状況は厳しい。工場では最盛期には8人前後を雇っていたが、今はもっぱら孫の面倒を見て過ごしているという。同氏は「貯金を取り崩す生活だが、新区を支持しなければならない。国家的な大事業なのだから。われわれは皆、歓迎している」と述べた。今年に入って雄安新区と北京市を結ぶ高速鉄道の建設が始まり、2020年末までの営業開始が予定されている。これにより、同市までの所要時間が約30分短縮できる」

 

最も気の毒な人たちは、地元の住民である。工場閉鎖を命じられたので、村の住民500人のうち200人が職を失ってしまった。すぐに建設工事が始まらなければ、操業していてもいいはず。ちっぽけな工場は、壮大な「雄安新区」の夢を壊すとでも思ったのだろう。こういう当局のやり方を見ていると、「明国」や「清国」の出来事でないのか。そういう錯覚すら覚えるのだ。