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人民元相場は現在、小康状態にある。きょうは、1ドル=6.80~6.82元のゾーンだ。この状態が、いつまでも続く保証はどこにもない。間もなく発表される米国の2000億ドル関税発動によって、大きく揺さぶられることは疑いない。

 

『ロイター』(9月4日付)は、「貿易戦争で人民元の一段安も、中国が試される本気度」と題する記事を掲載した。

 

(1)「元が4カ月にわたって値下がりしてきた間、人民銀はずっと小手先の対応でしのいできたが、最近になってさらなる下落は好ましくないとの姿勢を示唆し、市場が1ドル=7元を試す手前で何とか相場を安定させている。しかし市場関係者の話では、米中貿易摩擦の激化で既に減速している中国経済が一段と圧迫されるのに伴って、人民元に対する下げ圧力が復活するのも避けられない。トランプ政権は、早ければ今週中にも新たに2000億ドル相当の中国製品に輸入関税を適用する可能性がある。これが実現すれば、中国当局の金融緩和や米国債利回り上昇、全般的なドル高というプレッシャーにさらされている人民元の下落リスクは一層増大しかねない」

 

もともと中国は、管理型変動相場制という変則状態だ。問題の本質はここにある。GDP2位の国家が、自己保身で世界の自由市場を悪用する意図が明らか。インドも自由変動相場制である。インドに可能で、中国が不可能という理由はない。明らかに、為替相場で有利な立場を得ようというものだろう。中国は人民元相場を、外貨準備高3兆ドル台維持と関連させている。この外貨準備高を見せ金に使い、外交的支配圏を広げようとしている。これが、世界覇権論の野望を形成しているのだ。

 

市場は、中国の野望を見抜いている。米国の2000億ドル関税発動が、管理型変動相場制に風穴を開けると見ているのかも知れない。統制経済の中国が、世界の自由市場で甘い汁を吸い続けることは許されるはずがない。中国も裸になって統制=保護を撤廃することだ。米国の「トランプ関税」は、それが目的である。

 

(2)「BNPパリバの中国金利・FXストラテジスト、Ji Tianhe氏『人民銀は今微妙なバランスを保っており、米中の貿易を巡る協議がもたらす予想外の事態や、市場のリスクイベントがそうしたバランスを狂わせる恐れがある』と述べた上で、状況が変われば人民銀はより強力な通貨政策を発動してもおかしくないと付け加えた。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリストチームは、年初来で約5%下落している人民元が今後あと1.6%下がり、年末には1ドル=6.95元になると予想する。ゴールドマン・サックスは来年初めに1ドル=7.1元まで元安が進むとの見方を変えていない。もっとも中国エコノミストのM・K・タン氏は、その後通商面の緊張が和らいで元高に戻るとみている」

 

市場関係者は人民元相場が今後、波乱の展開になると見ている。その引き金が、2000億ドル関税発動だ。中国経済に負の影響を与えることは確実で、人民元相場が売り込まれる。年末には1ドル=6.95元、来年初めに1ドル=7.1元の予想も出てきた。人民元が7元を割り込むとすれば、最近では記録的な安値になる。人民元投機が活発になれば、中国当局は外貨準備高を守るため米国と妥協せざるを得まい。そうなると、「通商面の緊張が和らいで元高に戻る」というシナリオが描けるのだろう。中国の急所は、外貨準備高3兆ドル台維持にある。これが、見栄の源泉であるからだ。