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中国の通信機器メーカーZTE(中興通訊)は、米国からの半導体輸出禁止で倒産の淵に立たされた。改めて、高級半導体技術を持たない悲哀を痛感させられた。折しも、米国は「中国製造2025」という中国の産業高度化戦略の阻止に焦点を合わせている。

 

「中国製造2025」は、中国政府の統制下で政府資金を投じて研究開発する構想である。これは、WTO(世界貿易機関)のルールと完全に違反しており、米国は強い危機感を以て反対している。米国が、貿易戦争と言われる形の高関税を中国製品へ掛けている理由がこれである。また、半導体が将来において、「第二の鉄鋼」のような過剰生産に陥ることを極度に警戒している。

 

米国を初めとする先進国が、「中国製造2025」に疑惑の目を向けている理由は、中国政府が異常な熱意を示している海外拡張戦略と軌を一にしていることだ。昨秋の共産党大会で、2050年頃をメドに世界覇権へ挑戦すると広言した裏に、「中国製造2025」が組み込まれていることに気づいたからだ。つまり、「中国製造2025」は、中国が世界秩序へ軍事的挑戦する土台である。こういう位置づけが明確になった以上、米国はこれを放置できず強硬姿勢に変わった。

 

実は、中国の国務院発展研究センターと世界銀行が、2012年2月に共同研究の成果として公表した論文がる。それによると、中国が「中所得国のワナ」を回避し、高所得社会を築くための戦略提言として、市場経済への移行を実現する「体制移行」問題を取り上げていた。ところが、同年秋に国家主席に就任した習近平氏は、これを骨抜きにして逆走を始めた。「体制移行」という市場経済化の道でなく、国有企業中心の計画経済を復活させる経済体制である。

 

習政権が力点を置く「中国製造2025」は、国家主義の先兵となって、自由主義政治体制へ挑戦する「武器」と見られるにいたった。仮にこういう中国の「逆コース」がなく、体制移行への過程として、「中国製造2025」が登場していれば、現在のような米中貿易戦争も起こらなかったと見られる。国粋主義者の習近平氏でなく、合理主義者と見られる李克強氏が旗振り役であれば、違ったイメ-ジで捉えられていた可能性も否定できない。

 

「中国製造2025」が、黒い計画と呼ばれ始めたことには、次のような隠れた生産シェア目標が掲げられていたことも災いした。

 

『ブルームバーグ』(9月5日付)は、「中国の産業育成策驚くべき野心的目標-外国企業は事実上締め出しか」と題する記事が掲載された。

 

(1)「トランプ米政権が週内にも2000億ドル(約22兆3000億円)相当の中国からの輸入品に対する追加関税の発動を決めれば、中国との貿易摩擦の激化は避けられない。だが、摩擦の中心にあるのは中国の産業育策『中国製造2025』を巡る対立だ。中国製造2025は、ロボット工学から新エネルギー車、航空宇宙に至る産業で優位に立つことを目指す中国産業政策の中核だ。この青写真の主な要素は『中国製造2025重点領域技術ロードマップ』に記載されているが、これは非公式文書のため見落とされやすい。表紙が緑色だったことから『グリーンブック』としても知られる」

 

中国政府は、「中国製造2025」という言葉を頻発してきた。それが、65日以降になるとピタリと使われなくなったのだ。中国当局は、同戦略が米政権の強い反発を招いたと認識した結果とされている。

 

「中国製造2025」には公表されていない「グリーンブック」という表紙の青い、マル秘の指示書がある。具体的は国内生産シェア目標を掲げているものだ。

 

(2)「公式の『中国製造2025』には、中国企業が目指す具体的な国内外の市場シェア獲得目標が記されず、市場主導で実行する必要があるとまで書かれている。だが、296ページに上る『グリーンブック』には驚くべき目標が詰まっている。実現すれば、中国国内の多くの産業セグメントから外国企業を事実上締め出す内容で、世界の企業にとっては市場断絶の恐れがある。

国内の生産シェア目標は、次の通り。

 

農業機械    95%

新エネルギー車 90%

形態通信器   80%

産業用ロボット 70%

集積回路    56%

汎用機     40%」

 

農業機械から産業用ロボットまで過半の生産シェアを国内企業が占める。だが、集積回路(半導体)は、56%と控え目の数字になっている。これを見ても分る通り、半導体は「苦手意識」を持っていることが分かる。だが、大量の資金と人材の引き抜きによって、先進国との溝を埋める強気の戦略を立てている。

 

国際協力銀行(JBIC)の前田匡史総裁が次のように、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)に対して、中国当局が産業戦略を通じてハイテク技術を入手することは、欧米の民主主義国家にとって「非常に危険だ」と強い警戒感を示した。

 

『大紀元』(8月29日付)は、「国際協力銀の前田総裁、中国の産業戦略は欧米にとって危険」と題する記事を掲載した。

 

(3)「総裁は、中国の産業発展政策「中国製造2025」にも言及した。この政策によって、中国企業が人工知能(AI)や他の新ハイテク分野で優位に立つと、総裁が警戒した。ハイテク技術の開発には、数十億件のオンライン・チャットなどのビックデータ収集・分析が必要だ。総裁はこの状況について『非常に危険だ』と述べ、米・欧州連合(EU)・日本を含む各国が、ビックデータ活用に関する共通の規定を策定する必要があると強調した。中国は現在、ビックデータを応用した顔識別技術大国となった。当局はこの技術を国民監視と体制維持のために使っている」

 

ここでは、中国が「中国製造2025」の成果によって、人権を蹂躙する「悪魔の手」に変わる危険性を秘めていることを指摘している。先進国が、この「中国製造2025」に警戒感を持つ理由は多方面にわたるのだ。