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米国トランプ政権は、通商面でもなかなか巧妙である。先ず、対中国の貿易戦争では日本を初めとする同盟国の足並みを揃えて、中国包囲網を作らせた。この包囲網が成果を上げられると見るや、日本との貿易摩擦を取り上げて改善を迫っているからだ。

 

トランプ氏は、同盟国といえども手加減せず、貿易赤字削減を求めて二国間協定を迫ってきた。その結果、NAFTA(北米自由貿易協定)では、メキシコが妥協し、カナダにも改訂を迫っている。欧州(EU)も交渉に入っている。残るのは、日本だけである。11月の米中間選挙を目前に「日本攻略」に着手するようだ。

 

米国が対中貿易包囲網をいかに形成してきたかを検証しておきたい。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月8日付)は、「遠のく米中通商合意、各国と対中包囲網形成へ」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米当局者は、NAFTAと米中の動向は相互に関連していると話す。米国は通商政策を巡り、メキシコとカナダとの緊張を和らげたほか、欧州連合(EU)とも暫定合意にこぎ着けており、対中包囲網で各国の理解を得られやすい状況が生まれた。米国とEU、日本はすでに、対中戦略を協議する会合を開いている。トランプ大統領は今週、『中国が望む合意を締結する用意はない』と言明した」

 

トランプ氏の「ディール」は、最初に相手国へ大きな条件を持出して萎縮させてから、具体的な交渉に入るスタイルである。相手に言葉で一撃を加えて細目を詰めるのだ。こういう手法で、「同盟国へ喧嘩を売ってどうするのだ」という批判を浴びたが、米国はNAFTAやEUでも譲るべき所は譲っている印象だ。日本に対しても、「大きな問題になる」と例によって、口撃を加えている。日本はこれに怯んでは負けになる。理論的な攻め方で凌ぐしかない。

 

(2)「中国は目下、両にらみの戦略を掲げているもようだ。中国当局者は、先月末にワシントンでの米中通商協議が不調に終わって以降も、米中は協議を継続していると強調することで、市場の不安払しょくに努めている。一方、米国の中間選挙前に、大きな進展を見込む中国の当局者はほとんどいない。中国当局者は共和党が選挙で惨敗すれば、対中協議でのトランプ大統領の姿勢も軟化するともくろむ。ただ、中国に選択肢はあまりないかもしれない。8月の米中協議では関係筋によると、トランプ政権の交渉団は一段と具体的な成果を要求した」

 

中国は、もともと正統派の交渉が不得手である。相手の後方を攪乱させるゲリラ戦法が得意である。この手法は、米国相手では通用しないのだ。ディベートの米国である。正論で攻められたら、中国はどうにもならない弱い立場である。WTO原則を無視して、保護主義を貫いてきた。これが、中国経済を極度に脆弱なものにしている。米国がここをギリギリ突いているのだ。悲鳴を上げて逃げ回っているに違いない。米国へは、脅迫を言ったところで逆襲されるだけ。仮に、TVで交渉過程が見られるなら、世界中の人は米国の応援をするはずだ。「義は米国にある」からだ。

 

(3)「通商政策を巡ってはトランプ政権内でも意見が分かれていたが、米国側は今回、かなり結束していたという。米国の立場は、補助金や国内企業優先の政策を減らすといった、より根本的な変革を中国に迫るライトハイザー代表の考えに傾いている。だが、中国側にとって、構造改革の要求を受け入れることは最も難しい。トランプ政権やその支持者は、中国が米国の政治を見誤っていると指摘する。トランプ大統領の立場が苦しくなるほど、民主党に迫られる形で、中国への強硬姿勢は強まるというのだ」

 

これまで、米政権ではハト派とタカ派に分かれていたと指摘されてきた。前者は、財務長官や通商長官である。後者は、原則派である。中国に変革を迫るライトハイザー代表の考えが、米政権を一つにまとめたと言われる。米国のマスコミ報道では、タカ派を非難する調子であった。日本でも、米国による中国の構造改革要求は、内政干渉になるという社説を掲げた有力新聞社がいる。私はかつて、一連の日米経済摩擦を取材してきた人間として、「内政干渉論」は当らないと書いてきた。中国には、それだけの批判されるべき理由があるからだ。

 

中国は、WTOルールを悪用してきた。それが抜本改革を迫られている。そのショックがどれだけ大きいかは想像を超える。