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中国一の富豪、馬雲(ジャック・マー)氏は、きょう54歳の誕生日だという。歴史上の人物でない馬氏の誕生日をあえて書き記したのは、氏が本日、人生「次の選択」を明らかにすると報じられているからだ。中国の特定個人を取り上げることに違和感のある向きは、この記事を読まずに飛ばして頂きたい。後から、非難を受けるのは本意でないからだ。

 

日本では、54歳は働き盛りである。中国では、ほとんどの人が55歳でリタイアする。健康上の理由でそれ以上、働き続けることが困難な環境に置かれているからだ。馬氏は、次の人生を教育事業に捧げたいという。中国人で、こういう崇高なことを目標にする人はほとんどいないのだ。多くの富豪が、さらなる富を求めて政治と癒着して突進する。馬氏は、こういう部類の人々と、一線を引いている。

 

私は、馬氏の人生選択に強い共感を覚える一人である。米国メディアが競って取り上げているのは、経営者のジャック・マーと言うより、人間としてのジャック・マーの姿勢が心を打つのであろう。

 

『ブルームバーグ』(9月7日付)は、「アリババの先にある人生『ジャック・マー財団』通じ教育の世界へ」と題する記事を掲載した。

 

(1)「ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、アリババの共同創業者で会長を務める氏は、自身の名を冠した財団を創設すると表明。10日に54歳の誕生日を迎える馬氏は今後、経営から退いた米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏と同じような道を歩むつもりだと打ち明けた。ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、馬氏の資産は400億ドル(約4兆4200億円)以上中国で最も有名な経営者の1人となった元英語教師の馬氏は、約20年前にアリババを創業し、たまたまビジネスの世界に入ったと自らを語る。2013年に最高経営責任者(CEO)職は退いたが、時価総額が4000億ドルを超えるアリババの顔としての存在感を示し続けている」

 

54歳の誕生日に、次なる人生目標に向けて歩み出す。私は、ビジネスで大成功した人間が、最初の夢であった教育の世界へ戻る。ここに、限りない人生の「格好良さ」を感じるのだ。ビジネスで成功しても、それは「仮の姿」と言っているのだ。普通であれば、このままビジネスを続けていた方が良いだろうに、と思う。ご本人は本来の夢に戻るという。人はそれぞれ、夢が違うのだ。

 

(2)「馬氏は、『多くのことをゲイツ氏から学んだ。彼ほどリッチには決してなれないが、彼よりうまくやれていることがある。早めの引退だ』と馬氏。『いつの日か、それも近いうちに、教育の世界に戻るつもりだ。アリババのCEOでいるより、私にはずっとうまくできると思う』と述べた。それは年内かとの問いに対し、馬氏は肩をすくめほほ笑むと、『すぐに分かる。『ジャック・マー財団』を準備している。こうしたこと全てを10年間にわたり準備してきた」と答えた。個人資産を寄付するのか、他の資産家がしているように信託に資金を投じるのかは明らかにしなかった』

 

「人づくり」は、人生最高の夢と語った先人がいる。事業を残すは次善の策。カネを残すは最悪の選択だ、と。これを言ったのは、後藤新平だっただろうか。馬氏が、この言葉に従ったかどうかは知らない。氏の年来の夢が、教育にあっただけであろう。

 

(3)「馬氏の教育への熱意は、その重要性をたびたび強調している同氏をよく知る者にとって、驚きではない。中国の大学統一入学試験に2度も失敗するなど、馬氏は学生時代の不首尾もよく口にする。『良い学生と思われていなかった私だが、向上することができた。われわれは常に学び続ける。私はこのことに最も多くの時間を注いでいきたい』と話した」

 

馬氏は、いわゆる「大学浪人2年」の生活を余儀なくされた。それは、育った環境が教育に不適なものであったのかも知れない。教育環境さえ整えれば、子どもの力は無限である。そういう信念を深く刻み込んでいるのだろうか。馬氏は、義務教育分野で余生を生きる覚悟とも受け取れる。私が、馬氏に深く傾倒する理由はここにある。