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中国経済は三重苦に取り囲まれている。過剰債務処理・信用危機・米中貿易戦争の三つである。これら三つの難問を同時に解く方法はない。少なくも、米中貿易戦争を解決しなければ、信用危機の到来を早めることは不可避であろう。中国経済への圧迫要因で、早急に解決しなければならぬのは、不動産バブルがもたらした過剰債務が、不良債権を発生させていることだ。

中国政府は、「ハードランディング」にはならない。「ソフトランディング」になると言い続けてきた。現実は、そんな生温い問題ではない。「リーマンショック10年」という節目で、中国の信用危機が俎上に上がっている。政府は、綻びが見えないように覆い隠しているが、マネーの動きだけは誤魔化せない。正直に、中国経済の抱える病巣を示している。その苦悩する実態を、マネーの面で見ておきたい。そして、この現実を把握することにより、中国に米中貿易戦争を戦える力はないことが理解できると思う。

 

 

『ロイター』(9月12日付)は、「中国、新規人民元建て融資、8月は1.28兆元に減少、予想下回る」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、8月の新規人民元建て融資は1兆2800億元(1864億ドル)で、前月(1兆4500億元)から減少し、アナリストの予想(1兆3000億元)もわずかながら下回った。マネーサプライM2は前年比8.2%増加。アナリストの予想は前月と同じ8.5%増だった」

 

中国人民銀行は、銀行に対する「窓口指導」を復活させて新規貸出を増やす努力をした。それにも関わらず、8月の新規人民元貸出は7月を1700億元も減少した。この結果を受けて8月のマネーサプライM2は前年比8.2%増と増加率が下がっている。これが示すように、中国経済はすでに「信用危機」に陥った。銀行は、融資したくても確実な返済を見込めない先に融資できないルールだ。万一、貸出して不良債権になれば、貸出責任が問われる。金融には、こういう厳しいルールがある。日本で現在、スルガ銀行の粗雑な貸出がニュースになっている。例外ではない。

 

(2)「経済が減速しているところに米国の制裁関税が追い討ちをかけ、政府は数カ月前から融資規制の緩和や資金調達コストの抑制に動いている。しかし、内需が低迷し、債務不履行が増える中、銀行は経営の苦しい中小企業向け融資に二の足を踏んでいる。8月の社会融資総量は1兆5200億元(2213億5000万ドル)で前月(1兆0400億元)から増加した。社会融資総量は、銀行貸出システム以外のオフバランス融資を含み、シャドーバンキングの動きを示す目安とされている。8月末時点の社会融資総量残高は前年比10.1%増の188兆8000億元(27兆4900億ドル)だった」

 

中小企業が融資を受ける先は、多くがシャドーバンキングである。正規の金融機関は不良債権発生を恐れて貸出を拒んでいるのだ。そこで、社会融資総量という中国独特の金融概念による貸出を見ると、今年に入ってからの推移(前年比増減率)は次のようなものだ。

 

1月 -17.2%

2月   6.5%

3月 -32.0%

4月  24.5%

5月 -24.4%

6月 -22.3%

7月 -10.7%

8月  10.1%

 

この増減率を見れば、中国の中小企業が金融的に相当追い詰められていることは疑いない。とくに、マネーサプライM2が前年比8.2%増という記録的な低さから見て、正規の銀行による信用創造機能は、極端に低下していると見るほかない。M2の伸び率が、名目経済成長率を下回っているのだ。通常、あり得ないことが起こっている。「マネーの逆流」と言える。