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習近平氏は、今回の米中貿易戦争を振り返ったとき、どのような評価を下すだろうか。現在は、側近に引上げた国粋主義者の発言に迷わされているが、米国と貿易戦争することによって失なうものがどれだけ大きいか、それに気付くはずだ。

 

米中間では、ヒト・モノ・カネの交流がほとんどゼロ状態にまで低下している。中国の国粋主義者たちは、いかがわしい歴史観を持出して、「米国衰退・中国発展」という非科学的な信仰に酔っている。それは、何ら根拠のない話だ。建国300年に満たない若い歴史の米国が衰退し、4000年の歴史になる中国が再び発展して、世界覇権を握ることなどあり得ない。習近平氏は、このあり得ない話に賭けている。習氏の思考構造は、どうなっているのか聞きたいものだ。

 

米国が前述の通り、対中国のヒト・モノ・カネの交流を絞ってしまった。これによって、先ず中国の受ける損失は、米国企業への直接投資が不可能になっていることだ。米国政府は安全保障上の理由から事実上、中国の対米直接投資を禁じてしまった。米国企業は、世界一の「経営上手」である。ここへの投資は、採算的にも有利である。その宝の山へ「出入禁止」処分を受けたのだ。これは、大きな痛手である。日本は、市場経済国で世界覇権狙いなどという非現実的な野望をもたない国だ。木戸ご免である。

 

2018年1~6月期の中国による対米直接投資は前年同期比9割も減っている。中国はもともと先進国へ投資が少なく発展途上国を主体としてきた。これは、「一帯一路」が典型的例である。純粋な投資目的よりも、政治支配権の拡大に主眼を置いている結果だ。それ故、投資リターンが少ないという欠陥を持っている。

 

バラマキ型の対外直接投資が、中国の経常収支構造を大きく歪めることになった。所得収支の赤字が拡大している。2016年では、170ヶ国中168位というどん尻に位置している。赤字幅は440億ドルである。

 

これには、膨大な対内直接投資を受入れているという影響もあるが、対外直接投資のリターンが少ないことも原因である。ちなみに日本はどうか。資本収支では2009年までは1位。その後は2位だ、「優等生」なのだ。2016年の所得収支黒字は1665億ドル。日本は、中国と違って政治的野心がないから、純粋に経済要因だけで対外投資して成果を上げている。

 

中国は、米国から閉出された結果、将来の所得収支赤字は改善見込みが立たないのだ。一方、対照的に日本は一段と対外直接投資に力を入れている。中国は、「一帯一路」で政治性の強いプロジェクトに熱を入れたので、「債務付け」という国際高利貸しのイメージが定着した。日本と中国は、どちらが賢明か。言うまでもあるまい。20世紀までの帝国主義的な発想では、総合的な国力は伸びない時代である。中国政府は、このことを肝に銘じるべきだろう。