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南北首脳会談が終わって、最大のメリットを受けたのは文在寅政権であろう。50%を割った支持率は、一挙に61%へと跳ね上がったからだ。文氏が、自らの支持率を上げるために南北首脳会談に臨んだような形になった。韓国大統領として、北朝鮮金正恩委員長に媚びへつらったと見えるのだ。そういう批判が韓国国内に出ている。

 

これまで、北朝鮮が韓国に仕掛けてきた軍事テロによって、韓国では多くの人命が失われている。そのことについて、北朝鮮は謝罪の一言もない。韓国もそれを追求することもなかった。犠牲者は「死に損」という虚しい結果である。

 

韓国政権が、このように、北朝鮮に対して「畏怖」の念を持っているのは、大統領府の秘書官の3割が、「86世代」と言われる「反米・親中朝」派で固められている結果だ。「86世代」とは、1960年代生まれで80年代に大学生活を送り、「光州事件」で韓国軍と火焔瓶で戦った元「学生運動家」である。彼らは、北朝鮮の金日成思想に心酔していた連中である。北朝鮮が、「母国」と思うほど有り難い存在になっている。その北朝鮮の「首領」と会談したのだ。感謝感激であることは十分に想像可能である。

 

『朝鮮日報』(9月21日付)は、「南北首脳会談中に相次いで起きた奇妙な出来事」と題する社説を掲載した。

 

(1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は19日夜に平壌でマスゲーム『輝く祖国』を観覧し、競技場に集まった15万人の平壌市民にあいさつを行った。その際に文大統領は『(平壌で)難しい時代にも民族の自尊心を守ってついに自ら立ち上がろうとする不屈の勇気を見た』と述べた。北朝鮮が困難な状況となっているのは、金氏王朝による閉鎖的な経済政策に加え、核開発によって国際社会からの制裁を自ら招いてしまったからだ。影響でこれまで数十万人以上の住民が飢え死にしたといわれる。北朝鮮の核開発による最大の被害者である韓国の大統領がこのような事実から顔を背け『民族の自尊心を守って』だとか『不屈の勇気』などと表現すれば、韓国国民はもちろん犠牲になった北朝鮮住民はどのような立場に追い込まれるだろうか。またあいさつの際に文大統領は自らを『南側の大統領』と表現したが、大韓民国はこのように国号ではなく方向によって区別されるべき国ではない」

 

問題点を箇条書きする。

   「(平壌で)難しい時代にも民族の自尊心を守ってついに自ら立ち上がろうとする不屈の勇気を見た」と述べた。

   挨拶の際に文大統領は、自らを「南側の大統領」と表現したが、大韓民国はこのように国号ではない。

 

   文大統領は、民族の自尊心」「不屈の勇気」を讃えた。韓国と軍事的に対立してきたことが、韓国と米国に責任があるような文脈である。これは米韓両軍を貶める発言だ。この際に最適挨拶は、過去に触れず、「朝鮮民族の偉大性」ということでお茶を濁すべきだった。

 

   「南側の大統領」という表現は、金正恩氏が使っている言葉である。北が、韓国を正統な国家と認めないニュアンスである。韓国大統領として、北朝鮮へ余りにも迎合した発言だ。

 

(2)「韓国与党・共に民主党のイ・ヘチャン代表は、北朝鮮住民に向『われわれが政権を奪われた影響で南北関係は断絶した』という趣旨の発言を行った。かつて南北関係が硬直した理由は、北朝鮮が民族を滅ぼす恐れのある核実験を行い、韓国人観光客を射殺し、哨戒艦『天安』を爆沈させて韓国軍将兵を殺害したからだ」

 

韓国の革新派は、保守派と政権交代したことを、「われわれが政権を奪われた」としている。何と情けない発言か。政権交代は、民主政治の原則である。自らの治世能力のなさが政権交代を招いたものだ。「政権を奪われた」という表現は、北朝鮮へ媚びる以外の何ものでもない。韓国の革新派は、精神的な源流が金日成思想にあるから、こういう屈折した発言をするに違いない。