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中国の自動車販売は、EV(電気自動車)狂騒曲を演じているが、それは表面的なことだ。乗用車の販売台数が6月以降、前年比でマイナスに落込んでいる。今年の販売台数は通年で減少になる見込みである。

 

耐久消費財では、家電がすでに普及一巡である。後は買い換えぐらいしか新規需要が見込めない。自動車も普及率から見て、家電同様の状態になっている。この点の認識が極めて重要である。

 

中国の自動車所有率がほぼ20%見当に達したと見られている。日本や韓国などの自動車の例を参考にすると、ちょうどこの段階を超えると販売減速に向けた転機となっていることが分かる。このことから言えば、中国の乗用車普及率はほぼ限界に達した見るべきだ。

 

中国経済は、これまで不動産関連が25%、自動車が10%のウエイトを持ってきた。この両産業で約3分の1を占めている。いかにも不安定な土台の上に乗った経済と言うほかない。不動産については、価格が高騰し過ぎてすでに天井圏にある。自動車は普及率の壁にぶつかっている。こう見ると、中国経済の前途は掛け値なしで厳しいというのが現実だ。

 

過去の乗用車の販売台数の増加率を示す。

2010年 31.6%

  11年  6.1%

  12年 11.5%

  13年 20.8%

  14年 13.7%

  15年 10.5%

  16年 18.6%

  17年  2.0%

  18年  1.3%(1~8月)

(資料は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』2018年9月26日付)

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月26日付)は、「中国自動車市場、政府のレスキューは期待薄」と題する記事を掲載した。

 

(6)「世界最大の自動車市場は今年、少なくとも過去10年で初めて年間販売台数がマイナスに転じるかもしれない。中国新車販売台数は3カ月連続で減少した。中国政府によるシャドーバンキング規制強化を受けて厳しくなった融資環境や、減税措置の縮小が購買意欲をくじいている。特に小規模かつあまり裕福ではない都市でそれが顕著だ。過去に市場が減速した際には、中国政府が自動車減税で窮地を救った。2009年と15年には、この手法で自動車販売台数が大きく押し上げられた」

 

自動車ローンは、多くがシャドーバンキングからの融資に依存してきた。高級車は、国有銀行が融資に応じるという。消費者の信用状態に応じた分類がされてきた。シャドーバンキングは、政府が整理の対象にしているだけに、自動車ローンも組みにくくなっているという。金融状況が、乗用車販売に影響を与える環境になった。この状況は、今後とも続くであろう。

 

(7)「中国政府が同じ手を使うことは恐らくないだろう。まず、先の減税措置が今年初めに段階的に縮小されたばかりであり、新たな減税はやや時期尚早だからだ。減税対象の買い手の多くは前倒し購入を済ませている。刺激策がなければ、中国の自動車市場はしばらく低速車線にとどまるだろう。最大の打撃を被るのは、相対的に低価格な車を販売する国内ブランドだろう。在庫は積みあがっており、メーカーは値引き幅を拡大し始めている。低価格帯では、成長を続ける中古車市場(今では新車市場の半分ほどの規模だ)との競争も激しくなっている。中国では今年、中古車の売り上げが13%増加している」

 

中国の自動車産業は、普及率20%の壁を突き破って、さらに販売台数が伸び続けるという客観的な状況にはない。今後は、買替え需要が主体になるので、国内ブランドは不利になろう。消費者心理としては、グレードの高いメーカーである外資系ブランドへ需要がシフトしていくはずだ。国内ブランド車の再編成が取り沙汰されている背景がこれである。

 

中国は次世代カーとして、EVの普及に賭けている。このEV化に合わせて国内ブランドを数社程度に絞り込む意向とも伝えられている。これによって、外資系ブランドと五分の競争力を磨けるのかは疑問である。依然として、技術力の差は大きいのだ。各地方政府は、EVを主力産業に押上げる意向が強く、政府の意向通りに再編が進むのか不透明である。

 

いずれにしても、自動車産業を再編成しようという背景には、成熟化産業になって需要が伸び続けることが不可能になったという厳然たる事実がある。このことに気付けば、中国経済の成長段階が従来と違い急速に鈍化するはずだ。

 

日本経済を例にとれば、高度経済成長期の10%が、第2段階では5%成長へ。そして第3段階では2.5%成長へと急速に鈍化した。この裏には、生産年齢人口比率の低下という絶対的な条件が左右した。また、バブル崩壊の後遺症がもたらす停滞要因も重なっている。

 

中国は、日本の歩んだ道とほとんど重なり合っている。生産年齢人口比率の急低下と不動産バブルの後遺症である。中国政府は、このことについての認識が完全に欠落している。世界覇権などは、前記の二点からもあり得ないことで、夢想に過ぎないのだ。この幻想に酔って、軍事力の拡大をしているが、本来は社会福祉に向けるべき資源である。それを間違えて防衛費につぎ込んでいるのだ。この弊害が、中国の国力を大きく消耗させている。早く、この間違いに気付くべきだが、習近平という政治家の下では不可能であろう。