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中国は、米国の決意を甘く見ていないだろうか。11月の米中間選挙で共和党が敗れれば、対中強硬政策を緩和させるという期待を抱いているかもしれない。そのために、選挙干渉をしてでも民主党を勝たせねばならない。このように考えているとしたら、それは期待外れに終わるであろう。与野党を問わず、中国の不公正貿易慣行是正への要求が極めて強い。

 

欧州も、不公正貿易慣行への危惧の念が高まっている。

 

ドイツ連銀(中央銀行)のワイトマン総裁は、IMF・世界銀行会合を前にロイターとのインタビューに応じ、「世界の貿易秩序を改革して、知的財産の保護を強化するとともに、補助金による歪みを是正すべきだ」との認識を示した(『ロイター』10月9日付)。

 

ここでは、国名を上げていないが、中国の不公正貿易慣行の是正がヤリ玉に上がっている。これに反対する論拠は見つからない以上、中国はこれに従わざるを得ない。その場合、中国は素直に応じるだろうか。「中国製造2025」は、先進国の技術窃取を前提に組み立てられたプロジェクトである。こういう裏事情から見れば、まず応じないであろう。あらゆる理屈をつけて時間稼ぎし、その間に技術窃取のスピードを上げるのであろう。

 

このような見方に立って、米国では長期戦の構えである。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月9日付)は、「米国の対中関税、長期戦へのパラダイムシフト」と題する記事を掲載した。

 

(1)「トランプ氏の主張によると、中国は米企業に技術移転を強要し、中国企業が世界に進出するための補助金を出している。関税発動の結果、企業が中国から製品を輸出するコストが高くなれば、外国企業は自社技術を中国国外に持ち出すようになるだろう。トランプ氏の通商チームはこう判断した。これは決して短期的な戦略ではない。米国通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表は先月、『パラダイムシフトが起きている』と語った。貿易紛争で強硬路線を取っているライトハイザー氏の立場が強まった」

 

「パラダイムシフト」とは、従来の考え方の仕組みが、革命的・非連続的に変わることを意味する。米中間の貿易不均衡問題の解決では、中国が対米輸入を増やして貿易黒字を減らす段階を超えて、中国の不公正貿易慣行是正に焦点が移っている。これを、ライトハイザー氏が「パラダイムシフト」と呼んでいる。中国が、これに対応できるか否かが問われている。米ホワイトハウス内は、数年かけても実現させるという基本的立場で統一した。

 

(2)「現在、米側のチームは以前より団結している。それはライトハイザー氏が目指すような変化を要求していく方針になったからだ。そこには、中国経済における国有企業の役割低減や、米企業が中国で現地企業の過半数株式を保有できるようにすること、米企業に機密情報を明かすよう圧力をかけないことなどが含まれる。だがこの種の変化は、中国にとって最も受け入れがたいものだ。世界貿易機関(WTO)の中国代表である張向晨大使は7月、中国は『社会主義市場経済』であると述べた。そして、『中国が変化し、別の道を歩み始めるとの臆測もあったが、それは全くの希望的観測だった』と」

 

米国は、次の要求を出している。

   中国経済における国有企業の役割低減。

   米企業が中国で現地企業の過半数株式を保有できるようにする。

   米企業に機密情報を明かすよう圧力をかけないこと。

 

中国は、7月のWTO会合で次のように答えた。

   中国は「社会主義市場経済」である。

   中国が変化し、別の道を歩み始めるとの臆測もあったが、それは希望的観測である。

 

中国は、社会主義市場経済だから、他国と異なる道を歩むとしている。もし、WTO原則を受入れる意思がないとすれば、WTOを脱退すべきだ。こういう米国の論理で中国を追い込むのであろう。

 

11月末、ブエノスアイレスで開かれるG20における米中首脳会談で、この問題が不調に終われば泥沼化する。その際、中国は外国企業の脱出に直面するであろう。

 

貿易戦争が、長期化の見通しになれば、外国企業は世界的な供給体制を見直す。すでに、その動きが始っている。中国から他国への工場移転である。中国にとっては、外国企業による将来の投資機会を失うので、これが「最も重大な貿易戦争の影響」だと指摘されている。高関税率で対米輸出が減ることよりも、外国企業の撤退が最も痛手である。これこそ米国が狙っている点である。

 

関税には、一種の慣性(注:一度動き出すと止まらなくなる)がある。すでに、その慣性が始った。中国が「米国の要求には絶対応じない」と声高に言えば言うほど、外国企業は中国からの撤退を始める。こうなると、中国は「蟻地獄」に陥る。米国の本音は、中国にできるだけ長く抵抗して貰いたい。その間に、外国企業が「脱中国」を図ってもぬけの殻になる。中国は、米国の高等戦術にはまり込む危険性が高い。