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「一帯一路」計画は、無残な結末を迎えた。中国から融資を受けた国が、返済も滞り「反旗」を翻す結果になっているからだ。中国が、こういう返済もままならないような国へ、なぜ融資したのか。最初から、過剰融資であった点に問題がある。中国は、それを無視して強行した。その報いを、一斉に受けているところである。

 

政治的な意図によって、貸出したケースが多い。ともかく融資によって、国内の過剰生産物を処理する目的が優先されたからだ。国内企業からは、「ともかく仕事がほしい」という強い訴えがあったのだろう。そこまで、中国経済は追い詰められていたと考えられる。最初から無理な受注工事であった。そういう曰く付きの工事が今、各国で取り消され始めている。中国のメンツは、丸つぶれである。

 

アフリカで最貧国とされるシエラレオネの新政権は、前政権が中国と契約した4億ドルの空港建設案を破棄する事態を迎えている。シエラレオネは、名目GDPは36億7500万ドル(2017年)、1人当たり名目GDPは491ドルという小国である。中国は、このシエラレオネに4億ドルの融資をして、新空港を建設させようとしていた。

 

中国による、この押しつけ融資から浮かび上がる点は、前述の通り、中国経済の行き詰まりである。名目GDP37億ドルの小国に、4億ドルも貸し付けても返済できるか、疑問に思わなかった点が常軌を逸している。常識的に言えば、最初からこういう無謀な融資話が登場するはずがない。中国は常識とは逆に積極的であった。いくら政治意図(相手国支配意欲)が強烈であっても、このような融資姿勢を取ったことに、国内経済の不調打開への強い目的があったのであろう。

 

中国の国内経済行き詰まりと、一帯一路の関係について再考させたのは、パキスタンへの猛烈な貸付攻勢への反省である。パキスタンは現在、過剰貸付で一帯一路工事を進めた結果、外貨準備高の急減に直面している。この危機を乗切るべく、IMFへ融資を申請する準備を始めた。この裏に、中国が苦境でパキスタンから融資返済を期待しているのでないか。そういう推測が浮かび上がっている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月10日付)は、「中国の一帯一路 完成するのはでこぼこ道」と題する記事を掲載した。

 

パキスタンは、積み上がった債務の返済期限が迫る中で、IMFへ120億ドルの緊急支援を要請すると見られる。IMFからの融資で返済肩代わりをしようというのだ。IMF融資の金利は安いであろうから、高利債務を低利のIMF資金で置き換える目的であろう。

 

パキスタン経済の行き詰まりは、一帯一路構想に暗い影を落としている。将来、新興国経済が力強い発展をするだろう。中国は、その水先案内人の役割を果たす善良な意図を売り込んできた。現実は、中国の雇用確保と過剰な素材生産のはけ口を求めていたに過ぎなかった。

 

昨年、パキスタンが受けた融資総額100億ドルのうち、中国資金が40%を占めた。これら資金でインフラ事業関連素材の輸入を増やした結果、外貨準備高が急減している。輸入額の2ヶ月相当分の外貨準備高にまで落ち込み、外貨危機が浮上するまでになった。

 

パキスタンが、一帯一路構想によって多額の融資を受けた結果、外貨危機に陥る皮肉な事態に陥っている。この裏に、中国がパキスタンへ融資返済を求めていると予想されている。中国が、パキスタンを「債務漬け」にするには貸付金額が多すぎて不可能なのだ。それどころか、中国はパキスタンが返済に応じなければ、「共倒れ」になるリスクを持つにいたった。

 

パキスタンが返済しなければ、中国が外貨準備高の取り崩しに陥りかねない。中国は是が非でも、3兆ドル台を維持しなければならないところへ追い込まれている。これぞ、まさに中国のマキャベリズムである。パキスタンがIMFから融資を受け、その資金を中国に返済させる。こうやって、中国がドル資金を回収して、外貨準備高を補強するというのだ。この一連の権謀術策が、マキャベリズムと言っている。

 

私は、中国の経常収支の黒字減少が、外貨準備高の積み増しでマイナス要因になっていると指摘し続けてきた。どうやら、この外貨準備高問題が「一帯一路」に大きなブレーキを掛けている。これが、日本へSOSを打ってきた背景であろう。こうした点から見ても、中国経済のピークは確実に終わって、急坂を転げ落ち始めていると判断する。経常収支の黒字減少とは、外貨準備高にこういう影響を与えるのだ。

 

(1)「中国の経済外交にまつわる誇大宣伝には気をつけよ――。これが投資家へのメッセージだ。マレーシアなど他の国々も最近、世界第2位の経済大国からあまりに巨額の投資を受け入れることには否定的な考えを表明した。パキスタンのように中国と運命を共にする国が、市場の混乱から無縁ではいられないのは明らかだ」

 

このパラグラフでは、「パキスタンのように中国と運命を共にする」という表現を使っている。パキスタンやマレーシア規模の経済が、中国から過剰融資を受けると、中国自体が外貨準備取り崩し(3兆ドル台割れ)に巻き込まれるリスクを指摘している。中国が「一帯一路」計画を発表して以来4年で、事態はここまで急変している。この意味で、「一帯一路」プロジェクトは、資金面か行き詰まったと言ってよかろう。