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中国が、米国への対抗手段として米国債を売却して嫌がらせをするのでないか。こういう話は、たびたび登場する。中国は、現実にそういう荒業を行うだろうか。

 

今回の米株価急落は、米長期金利の上昇であった。中国が現在、保有している米国債は約1兆2000億ドル弱である。この全額を売却すれば価格が下落するので、長期金利は上昇する。その結果、何が起こるかと言えば、米国株価の下落にともない中国株の急落である。こういう連鎖を考えると、中国は売りたくても売れない「金縛り」であろう。

 

『ブルームバーグ』(10月13日付)は、「米財務長官、中国による米国債売却の可能性巡り懸念してはいない」と題する記事を掲載した。

 

(1)「ムニューシン米財務長官は13日、中国が保有する約1兆2000億ドル(注:正確には7月現在で1兆1710億ドル)規模の米国債を両国間の貿易交渉で切り札として使ってくる可能性を巡り懸念してはいないと説明した。国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会出席のために訪れているインドネシア・バリ島で記者団に対し、ムニューシン長官は『この問題は安眠妨害とはなっていない。米国債市場は極めて流動性が高く、この問題がわれわれの交渉の中で議題に上ったことは全くない』と語った。ムニューシン長官は『米国債には多くの買い手がおり』、中国は『自由に自らがしたいように行動できる』と付け加えた」

 

中国は、外貨準備高の一環として米国債を保有するメリットを享受している。金利が付くことのほか、高い流動性である。いつでも大量に売却可能である有価証券は、世界で米国債がナンバーワンである。その米国債を今後、一切保有しないという極端な仮定を置かない限り、全額売却する「合理的な理由」が見つからない。一部売却して米国債の価格を下げれば、残りの保有国債の時価評価を下げるブーメランに襲われるからだ。こう見てくると、中国が感情的になって一時に全額売却するケースは考えにくい。

 

中国は、昨年8月に1兆2000億ドルの米国債を保有していた。その後は売却しているが、米国債市場は20兆ドル以上の規模とされている。中国が、1兆ドル以上の米国債を売却するとしても値崩れを起こさないようにするには、少量ずつの売却であろう。となれば、中国が一度に、全額売却して自らも損を被るという「自殺行為」をする懸念がゼロと見るのは当然。米財務長官が、中国は「自由に自らがしたいように行動できる」というのはその通りだ。