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先にインドネシアで開かれた世界銀行・IMFの年次総会で、中国批判の声が多く聞かれた。中国の技術窃取や「一帯一路」による債務漬けなど、具体的な批判である。

 

中国は昨年秋の党大会で、共産党結党100年に当る2049年をメドに、世界覇権を狙う意思を明らかにした。これが、米国に中国との「冷戦」を決意させた。その意味で、習近平政権の出現は、世界に緊張をもたらす大きな原因になっている。

 

中国は「60%現象」という言葉を持ち出して、米中緊張の原因は米国がつくったものとしている。「ある国の国内総生産(GDP)が米国の60%に達すると、米国はあらゆる力を使ってその国をつぶしにかかるという経験則がある」というのだ。1980年代から1990年代にかけて、日本のGDPが米国の60%見当に達したので、米国が「日本潰し」を謀ったとしている。現在、中国のGDPが米国の60%に達したので、日本と同様に「中国潰し」を始めたという解釈だ。

 

これは、もっともらしく見えるが、日本と中国の場合では決定的に異なる点がある。それは、日本が米国の同盟国であることだ。日本が、米国覇権を脅かす存在でなく、日米貿易不均衡による経済摩擦だけが原因であった。当時の日本は、中国と同じ保護主義で凝り固まっていた。日本は、膨大な対米黒字を計上しており、1985年のG5によるプラザ合意を受入れざるを得ない立場に置かれていた。

 

現在の中国は、当時の日本と異なり「世界覇権挑戦」が目標であることを明示している。「中国式社会主義」を世界秩序に組入れる意思さえ見せているのだ。現在の世界秩序の基本である自由と民主主義への挑戦である。

 

米国だけでなく、欧州や日本も同じく「脅威」として受け取らざるを得ない事態だ。中国が、世界の普遍的な価値観に挑戦する以上、米国はそれを守る義務がある。そういう強い信念に基づいて、中国との「新冷戦」を決意した。「新冷戦」とは、「米ソ冷戦」に次ぐ「米中冷戦」という意味である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月16日付)は、「中国と新冷戦時代へ動き出した米国」と題する記事を掲載した。

 

(1)「トランプ政権が周到な計画の下、中国に対して反撃に動き出した。ホワイトハウスには、中国が長年、見境なく攻撃的な振る舞いを続けているとの認識があり、反撃は軍、政治、経済の各分野に及ぶ。両国の関係が一層冷え込む可能性が浮上した。トランプ政権発足から1年半、世界の二大大国である米国と中国の関係にとって、「北朝鮮をどう抑制するか」と「貿易不均衡をいかに是正するか」という2つのテーマをめぐる交渉が全てだったと言える。世界の注目を集めるこうした取り組みの裏で、ホワイトハウスは対中強硬姿勢へのシフトに向けて準備を進めていた。北朝鮮問題で中国の協力が得られなくなり、通商協議も行き詰まる中、対中強硬戦略が表面化してきた。複数のホワイトハウス高官や政府関係者へのインタビューから明らかになったのは、新たな冷戦を思わせる状況下で行われている両国間の最近のやり取りが、米国の対中政策から逸脱していないということだ」

 

米国が、新たな冷戦を思わせる対中行動には次の点がある。

    ペンス副大統領が今月4日、中国に対して激しい非難演説を行なった。

    米財務省は10日、中国対米投資の安全保障上の審査を強化する新規則を発表した。

    米司法省は中国情報工作員を逮捕・起訴した。

    米エネルギー省は11日、原子力技術の対中輸出規制を強化すると発表した。

    米政府は先ごろ、中国国営メディア2社にメディアとしての資格でなく、外国の代理人としての登録を義務付ける司法省の指示を承認した。

 

以上の5点が、相次いで中国に対して実施されたことは、いくら情報に鈍感な向きでも、米中間に「何かが起こっている」と思わせるに十分な「事件」であろう。

 

(2)「アナリストによると、中国政府関係者の多くは米国が一気に対中強硬戦略にシフトしたことに驚いており、米国が事を荒立てる中で中国は関係を安定させようと急いでいる。南京大学で米中関係と国際安全保障を研究する朱鋒教授は『米国は強硬姿勢をますます強めており、あらゆる面で中国と対立している』と指摘する。『中国政府はとにかく冷静でいるべきだ。新たな冷戦が中国の国益になるのか。答えはノーだ』としている」

 

中国にとっては、全く想像もできなかった米国の変化であろう。第一、トランプ氏が大統領に当選したこと自体驚きに違いない。だが、中国がGDPで米国を追い上げる。南シナ海では島嶼を窃取して埋め立て軍事基地化する。これら二点だけでも、米国民のプライドに中国が挑戦する大事件である。自由と民主主義を否定する中国の勃興は、とうてい受入れがたいことなのだ。

 

こういう事態の中で、中国が米国に反抗する姿勢をとれば、ますます泥沼化するので冷静に対応すべきである。こういう意見が、中国国内に出ている。これは、米国を怒らせた理由が、中国にあるという前提から出ている話であろう。

 

(3)「米国の一連の動きは、1979年の米中国交樹立にさかのぼる「建設的関与」戦略から米国が明確な方向転換を図ったことを意味する。この戦略の土台には、中国が経済、経済の両方で徐々に自由化を進めるとの期待があった。米国が方向転換したのは、2012年に中国トップに就任した習氏が偉大な大国を目指すと宣言し、政治と経済の権限を再び中央に集中し始めてからだ。米国は中国が来た道を戻り始めたと受け止めた」

 

米国は、中国を日中戦争当時も軍事的・経済的に支援する関係にあった。中国共産党が政権を掌握する事態になってからは、外交関係は断絶した。米中復交後、米国は中国の民主化を期待した。だが、習氏の登場はそれを不可能にしたのである。中国政府は、「過去の道」へ逆戻りして専制色を強めている結果だ。もはや、中国の民主化はあり得ない。そのような結論に達した。それどころか、中国は米国へ挑戦すると言い出したのだ、米国は、民主化の期待を裏切られた上に、米国へ挑戦するという宣戦布告状態に置かれている。米国が、中国を警戒する理由にこと欠かないのだ。