11

いつの時代でも、国を問わず若者は先を読むのに敏感である。中国の今年の就職状況では、それが見られるのだ。折から始った米中貿易戦争が、中国の若者の就職意識を微妙に変えていることが分る。起業や留学よりも国内で就職する。そういう選択が増えている。

 

中国のGDP成長率は、4~6月が前年比6.7%であった。それが、7~9月期には同6.5%増に落込んでいる。米中貿易戦争の深刻化により、来年のGDP成長率は6.1~6.4%へと減速予想である。こういう経済情勢では、学生が早く就職しようという意識になるのは当然であろう。

 

『人民網』(7月4日付)は、「大学生の企業熱留学熱が低下、何を映し出す?」と題する記事を掲載した。

 

就職情報サイトの智聯招聘がこのほど発表した「2018年大学生就職力報告」によると、智聯は「2018年大学卒業生の就職力の市場調査研究」で大学を卒業した9168人を対象にアンケート調査を行い、モバイルインターネット時代の95後(1995年から1999年生まれ)の大学生の就職における新たな動向を明らかにしたという。新華網が伝えた。

 

(1)「同報告によれば、今年の大学生の就職状況には多くの新しい動向がみられる。例年と比較して特に目立つのは、最初に就職を選ぶ割合が上昇を続けたこと、その一方で起業熱や留学熱が下がり続けたことだ。たとえば調査研究の結果によると、18年大学生卒業後の進路への意向では引き続き就職が中心で79.89%を占め、前年より6.39ポイント上昇した。就職を遅らせる選択をした人は6.99%、国内で大学院に進学するとした人は4.98%、起業を選択した人は4.78%、海外へ留学するとした人は2.63%だった」

 

大学卒業後、先ず就職する人の比率が約80%となり、6.4ポイントの増加である。これは、景況悪化を反映したものであろう。起業も景況が明るくなければ成功はおぼつかない。留学も経費がかかるから敬遠して、先ず就職という選択に走らせているのだろう。

 

(2)「これと同時に、大学生の就職の新動向には次のような目立った特徴があった。一例を挙げると、大学生の就職に対する考え方が変わりつつあり、「自己実現」が「お金を稼ぐこと」よりも重要だとする人が増え、ここから大学生が仕事の経験を積むことをより重視していることがわかる。また従来型製造業の求人ニーズが大幅に増加し、民間企業が引き続き大量の雇用を生み出す絶対的主力であることなどから、大学生の就職の方向性やチャンネルが多様化していることがわかる」

 

大学生の就職に対する考え方が変わりつつあり、「自己実現」が「お金を稼ぐこと」よりも重要だとする人が増えているのは重要な変化である。これは、中国社会が「マズローの欲求5段階説」の後追いをしていることを示唆している。人間は所得水準が上がると、経済的な欲求よりも「自己実現」を目指すようになる。中国の若者が、この過程に、入ってきたことは、中国共産党にとって脅威であろう。人権無視・専制政治体制への疑念がいずれは高まるからだ。

 

(3)「大学生の起業熱や留学熱が低下を続けていることから、現在の大学生の就職が理性的になり、周りと比べて影響されたり、流行を追い求めたりしなくなったことがわかる。たとえばこれまでは多くの大学生が起業を選択していたが、実際に卒業して実社会に足を踏み入れると、あらゆる方面で実践経験が不足していて、やみくもに起業しては、大きな困難やリスクにぶつかっていた。こうしたわけで、多くの大学生がひとまず就職するという選択をするようになった」

 

景況感の悪化が、若者の卒業後の選択を慎重にさせている。先ず職に就いて生活の糧を得る。起業や留学というリスクを伴うことよりも、就職という堅実な選択をしているのだろう。これまで、中国の大学生の起業熱は極めて高いと喧伝されてきた。沈静化している裏に、中国経済の構造変化が起っていることを表わしている。