来年は、3000人以上の犠牲者を出した天安門事件から30年だ。経済が低迷期入りするという同じ環境下で、学生と労働者が連帯を始めた。中国政府にとっては頭痛の種になっている。

 

天安門事件(1989年)は、前年の11.3%成長から、一挙に4.2%成長へと落込んだ年である。社会的な不満が高まったことは当然であろう。

1988年 11.3%

  89年  4.2%

  90年  3.9%

 

現在も、当時と似たような状況である。米中貿易戦争と不動産バブル崩壊が、中国経済に大きな痛手を与え始めている。企業から解雇された労働者や農民工が増え始めているはずだ。今年後半からの経済成長率は、さらに低下必至である。不満が噴き出す状況である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(11月12日付)は、「中国、活発化する労働運動に対して弾圧拡大」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国政府は、労働者の抗議デモに対する弾圧を全国的に拡大しており、少なくとも3つの都市でデモを組織した学生と工場労働者を拘束した。学生活動家によると、9日の夜には、北京、上海、深圳の各都市で、公安当局が学生や労働者の寮に踏み込み、大学生5人と広東省の労働者3人に加えて、深圳を拠点にする労働者団体の職員数人を連れ去った。今年の夏には、深圳市の機械メーカー佳士科技の工場で働く労働者が組合を組織する手助けをしようとした左翼学生活動家が40人近く逮捕された。大半は、超エリート校の卒業生だった」

 

北京大学など、いわゆるエリート校とされる学生が労働者の抗議デモに参加している。労働者は、解雇などに抗議しているもので、全国的に拡大傾向を示している。米国と貿易戦争する一方で、国内では労働者の抗議デモを始め、これに学生が参加する図式である。共産主義の定義に従えば、「国内での広汎な矛楯の激化に伴い、労働者・学生の前衛部隊が立ち上がった」という構図だ。習近平氏にとって油断できない状況が生まれてきた。

 

(2)「『政府にとって、名門大学の学生は今後も頭痛の種であり続けるだろう』と言うのは、香港に拠点を置く労働権利保護団体、中国労工通報(China Labor Bulletin)のジェフリー・クロソール(GeoffreyCrothall)氏だ。『1989年を振り返ってみれば、(天安門事件の民主化)デモで最も活発だったのは、大学で行動していた学生達だった。今回のような抗議活動が広がっていくことを、政府は明らかにとても懸念している』」

 

学生と労働者が連帯して、政府に抗議するとはどういう意味か。共産党政権が、弾力性を失い「寿命」を迎えてきたのであろう。習氏の独裁強化は、強硬手段による矛楯克服策に過ぎない。このように見ると、2049年の中国による世界覇権論は、弱さの証明でもある。大言壮語しない限り、事態の収拾を図れない局面なのだろう。