台湾政府は、何ごとによらず中国政府から虐められている。中国へなびかずに、米国と協調しているからだ。だが、米中貿易戦争の始りで、にわかに状況が変ってきた。米中紛争が長期化する見通しの下に、台湾IT大手企業が中国工場の一部を台湾へ回帰させる動きが顕著なためだ。

 

台湾政府は、台湾IT企業が中国へ進出し、間接的に「中国製造2025」の実現に協力することが、台湾の独立を脅かすことに気付くことになった。そこでこの際、台湾への回帰を促すべく、補助金を支給して支援する姿勢を強めている。

 

中国は、対米輸出トップ20社のうち、15社までが台湾企業である。両岸(中台)が、平和で中国から台湾への威嚇もなければ、中台はウイン・ウインの理想的な形のはずである。最近のように、あらゆることで中国の台湾虐めが起ると、「敵に塩を送ることはない」というクールな考えに戻るのは当然だ。

 

『ブルームバーグ』(12月29日付)は、「台湾・桃園、米中緊張で存在感高まる、大手エレクトロニクスが熱い視線」と題する記事を掲載した。

 

米中貿易戦争で大きな恩恵を受けている都市がある。台湾北西部にある桃園市だ。台北市から車で1時間ほどの桃園市は長年、低賃金を求める台湾企業が中国本土に生産拠点を移したことで低迷していた。だが、米中間の緊張がエスカレートする中、テクノロジー大手各社は一部生産を台湾に戻しつつある。そしてその移管先の多くが、約200万人の人口を有する同市だ。トランプ米大統領は対中関税の強化を示唆しており、こうしたトレンドに拍車が掛かりつつある。

 

(1)「中国本土に代わる生産拠点を探す大手エレクトロニクスメーカーは、同市に熱い視線を注いでいる。サプライチェーンの構図は台湾の大手企業が中国各地の生産拠点で製品を組み立て、「HP」や「デル」といったラベルを貼って出荷するというものだったが、その形が崩れる可能性もある。米アップルの「iPhone(アイフォーン)」を組み立てている和碩聯合科技(ペガトロン)とノートパソコン(PC)メーカーの仁宝電脳(コンパル)は今、1980年代以降続いた枠組みから脱却する準備を進めている。同じくアップルのサプライヤーとなっている英業達(インベンテック)を含めたこれら台湾3社は同市での事業を拡大。同市に本社を置く広達電脳(クアンタ)なども工場用地を探しており、同市は現在、台湾で最も人口が急速に増えている都市となっている」

 

桃園地区が、台湾企業による中国からのUターンで注目される存在になった。桃園市は長年、低賃金を求める台湾企業が中国本土に生産拠点を移したことで低迷していた。それが、一気に春が来たように活気を取り戻している。中国は、この姿を横で見ており、米中貿易戦争を終わらせたいという焦りを覚えているに違いない。その米国は、中国の足下を見透かしており、次々と交渉のハードルを引上げている。中国も、苦しい立場に追い込まれた。

 

(2)「(米国による)関税引き上げは、既に薄い企業利益をさらに押しつぶす脅威となる。バークレイズのエコノミスト、アンジェラ・シエ氏は(米中首脳会談以前に)「(米国が中国からの輸入品に課す)関税が25%に引き上げられれば、台湾企業は生産の台湾回帰や新たな場所への移転を速めるだろう。貿易戦争には不確実性も多いため、工場新設よりも台湾に持つ既存工場の生産能力を増強する動きとなる」と述べていた。台湾当局は免税措置を取るなどし、企業が生産回帰する機運を高めようとしている」。

 

台湾IT企業は、台湾で工場新設するよりも、既存工場の生産能力を拡張するという安全策をとっている。貿易戦争に不確実性があるためだ。ただ、米中が完全な和解はあり得ない。中国が、米国の覇権を狙っている以上、安保戦略が絡むので将来的には冷戦の激化が予想されている。ただ、習近平氏が失脚する事態となれば事情は変るにしても、それこそ最大の不確定要因である。経営企画にとても織り込める話ではない。

 

(3)「台湾の月額最低賃金は713ドルと、中国・上海市の労働者が期待できる347ドルの倍以上だ。それでも桃園への関心は台湾企業以外にも広がる。米カリフォルニア州サンノゼに本社を置くスーパー・マイクロ・コンピューターは桃園でのサーバー生産能力を増強し、新たな生産施設を建設する別の計画も進める。同社の同市への投資額は90億台湾元(約324億円)に膨らむと同市当局者は説明する」

 

サーバー生産能力の増強は、中国のファーウェイやZTEが、自由世界から締め出されるという前提で動き出している。「ファイブアイズ」(米・英・豪・カナダ・ニュージーランドによるUKUSA協定:5ヶ国による高度の諜報活動協定)は、日本・ドイツ・フランス・印度に呼びかけており、中国2社の排除は決定的になった。この結果、今後の需要増が見込めるので、台湾の高賃金でも採算が合うという見通しを持っているのだ。早くも、中国通信機メーカー2社の落後を想定した経営戦略が練られていることに注目すべきであろう。

 

メルマガ15号 「貿易戦争で疲弊する中国、改革派が追い詰める習近平」が『マネーボイス』で紹介されました。

まぐまぐの『マネーボイス』で抜粋が紹介されています。どうぞお読みくださるようお願い申し上げます。

https://www.mag2.com/p/money/612755
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