中国の政策は、場当たり的であることがますますはっきりしてきた。笛や太鼓で騒いだ「一帯一路」が、プロジェクト対象国を債務漬けにしたことで、中国の信用はガタ落ちである。中国が、長期的な戦略で世界的に中国の影響力を強めるものであったならば、あのような露骨な形で相手国を食いものにすることをしなかったと見られる。

 

要するに、戦略もなければ戦術もなく、ただ財政的な弱小国へ過剰貸付をして、中国の意のままに動かすという意味でしかなかった。今、前記の債務漬けにされた諸国の国民が、一斉に「反中」色を強めて中国を攻め立てる方向に舵を切っている。中国は、思わぬ落し穴に落込んだ形だ。

 

『ブルームバーグ』(12月31日付)は、「一帯一路追従に反発、貧困国で汚職疑惑、有権者に反中感情の火種」と題する記事を掲載した。

 

(1)「インド洋に浮かぶ島国モルディブ大統領選挙で、親中派のヤミーン大統領が敗北。政権交代を果たした新政権が目にしたのは借金の山だ。ニューデリーを最近訪れたモルディブ当局者が口にしたのは、GDPの20%近くに相当するあまりにも大きな対中債務と説明不可能な前政権の『一帯一路』偏重に対する不満だ。中国の習近平国家主席が肝煎りで進める巨大経済圏構想を重視するあまり、モルディブ前政権は5400万ドル(約59億6000万円)での病院建設応札を拒否し、1億4000万ドルという水増しされた中国案を選好していた。『われわれはやけどしたのだ』とモルディブのイスマイル経済開発相は嘆く」

 

モルディブは、親中国派の大統領が中国の「債務漬け」にあい、GDPの20%近い対中債務を抱えている。後任の親インド派大統領は、頭を抱えている。1億4000万ドルもの水増しされた中国案の病院建設案を中国から飲まされ途方に暮れているという。

 

インドが見かねて10億ドルの融資をするとも伝えられている。「モルディブの対中債務は30億ドル(約3400億円)とされるが、インドは最大10億ドルを低利融資する方向で、モルディブは対中債務の返済に充てる公算が大きい」(『日本経済新聞』11月29日付)

 

(2)「一帯一路をめぐりトラブルに陥ったのはモルディブだけではない。気前の良い融資にアジアの貧しい国は飛び付いたが、汚職疑惑や不平等感の高まりが有権者の怒りを招き、当局による調査やプロジェクト中止に至った国も多い。ジャーマン・マーシャル財団アジアプログラムのアンドルー・スモール上級研究員は『一帯一路の第1段階は終わった。新たなモデルはまだ見えないが、スピードと規模にほぼ全面的に焦点を絞った古いモデルはもはや持続可能ではない』という。中国当局は不適切な事例があったことを認識しており、世界で展開するインフラ整備計画を微調整していると、中国政府高官は説明する。プロジェクト執行の不手際は中国の評判を傷つける恐れがあり、反中感情の広がりを招きかねないと認めている」

 

悪評さくさくたる「一帯一路」計画は、見直し段階に入っている。中国の悪巧みが露見しており、後で取り上げるように、各国の大統領選挙でこの問題が取り上げられる見通しが濃くなっている。要するに、親中国派大統領が画策した「一帯一路」が選挙の争点になってきた。

 

(3)「アジア各国での対中感情の変化は既に明白になりつつある。中国と強い同盟関係にあったパキスタンでは11月、中国の投資に怒った過激派がカラチにある中国総領事館を襲撃し7人が死亡した。スリランカでは主権を脅かすまでになった中国の経済的影響力への反発が拡大しつつある。ミャンマー政府の顧問は中国が支援する港湾開発で中国側がはじき出した75億ドルという全体費用を『ばかげている』と批判。この契約は前の軍事政権時代に結ばれていた」

 

パキスタンでは、反中国の過激派が中国総領事館を襲う事件まで起こっている。7人が死亡している。ミャンマーでは、中国支援の港湾建設費が75億ドルにもなるとして疑問視され始めた。スリランカでも、中国の影響力への反発力が強まっている。

 

(4)「ワシントンの世界開発センター(CGD)はリポートで、中国のファイナンスで重債務に苦しむリスクに直面している8カ国を特定。パキスタンやモルディブ、ラオス、モンゴルなどに加え、中国人民解放軍が唯一の海外基地を置くアフリカのジブチも挙げられた。南シナ海の一角をめぐり領有権で中国と対立するベトナムでは、安全保障絡みのリスクが投資プロジェクトに影を落としている」

 

中国の融資で債務漬けになるリスクを抱える国が8ヶ国にものぼる。パキスタン・モルディブ・ラオス・モンゴル・ジブチなどである。中国が「国際高利貸し」として、弱小国を狙って、担保を取り立てる狙いであった。だが、ここまで国際的な問題になると担保奪取という強硬策はとれなくなった。結局は、中国の不良債権として外貨資金繰り圧迫するという、事態は思わぬ方向へ動き出している。

 

(5)「ユーラシア・グループでアジアを担当しているケルシー・ブロデリック氏は、来年4月のインドネシア大統領選に向けた選挙戦では中国の投資プロジェクトに対する厳しい検証が争点に浮上する可能性があるとみている。『一帯一路にもろ手を挙げて賛同してきた現職候補に勝つため、世界中の候補者が中国への借金に対する国民の懸念を利用している』と分析。反中国を掲げ10月のブラジル大統領選で勝利したジャイル・ボルソナロ氏を例に挙げたブロデリック氏によれば、ケニアやザンビア、タイでも同じような論戦が展開される公算が大きい」

 

インドネシア大統領選では、中国による投資プロジェクトの当否が争点になるという。例の高速鉄道建設が問題になっているのだろうか。建設が大幅に遅れているからだ。日本の新幹線採用計画を賄賂で横取りした報いだ。事前調査もせず、日本の作成した設計図を不法入手して、それで入札に参加したあくどい遣り方である。ケニアやザンビア、タイでも同じような論争が見込まれるという。一帯一路計画は総崩れだ。

 

メルマガ15号 「貿易戦争で疲弊する中国、改革派が追い詰める習近平」が『マネーボイス』で紹介されました。

まぐまぐの『マネーボイス』で抜粋が紹介されています。どうぞお読みくださるようお願い申し上げます。