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昨年の中国の貿易黒字は、16.1%減の3518億ドルである。実は、15年をピークに減り続けている。中国の輸出競争力は、確実に落ちている。背景にあるのは、過剰投資による生産性低下である。習近平氏は、「中国式社会主義」を標榜するが、その実態は非効率な重複投資である。

 

今年は、建国70年を迎える。昨年12月は改革開放40年を祝ったばかりだが、どうやら中国経済の「見せ場」は終わったようである。いつまでも「中華再興」の夢に酔っていると、とんでもない事態を招きそうだ。経済的に、「一寸先は闇」という事態へ動き始めている。

 

貿易黒字と経常黒字の推移

       貿易黒字     経常黒字     

2014年 3830億ドル   2360億ドル

  15年 5739億ドル   3041億ドル

  16年 5097億ドル   2022億ドル

  17年 4195億ドル   1648億ドル

  18年 3518億ドル    -55億ドル(1~9月)

 

上の表によれば、貿易黒字のピークは15年の5739億ドルドルである。急速な人民元高があったわけでもない。生産性の低下が、輸出競争力を奪ったものである。問題は、経常黒字である。昨年1~9月の累計では55億ドルの赤字である。10~12月の経常黒字は、どれだけ計上できるかがポイントである。

 

中国が「一帯一路」のプロジェクトを始めたのは、2014~15年からである。貿易黒字も経常黒字もピークの時期である。世界覇権を夢見たのだろうが、中国経済の実態を精査することなく、ただ中華再興の夢を追って始めたプランである。現在の経常黒字が直面する急減状態を見れば事実上、「一帯一路」は店仕舞いである。資金が続かないのだ。AIIB(アジアインフラ投資銀行)も同じ運命であろう。

 

『日本経済新聞』(1月10日付)は、「建国70年迎える中国の憂鬱」と題する同紙の上級論説委員 飯野克彦氏の記事を掲載した。

 

(1)「『中国経済はあなたが考えている以上にソビエトだ』。英経済誌『エコノミスト』は18年末に掲載した記事でこう警鐘を鳴らした。ソ連経済は1950年代から60年代に投資主導で目覚ましく成長したが、やがて生産性の上昇が止まり、80年代には生産性の低下を記録した。中国経済も似たような方向に向かっている、というのである。根拠となったのは一橋大学の伍暁鷹特任教授らによる研究。中国経済の全要素生産性(TFP)の伸びが、2007~12年に平均で年率1%を超えるマイナスを記録した、との衝撃的な分析である。これに対しTFPはなお上昇しているとの研究もあるが、近年その勢いに急ブレーキがかかったとの見方は多くの研究者に共通しているようだ」

 

どこの国でも投資主導経済は一時期、急速な経済成長をもたらすものだ。だが、投資はいずれ限界を迎える。それが、うまく個人消費へバトンタッチできれば良いものの、原理的に不可能である。最初から高い固定資産投資比率を保って、人為的に個人消費比率を抑制してきた経済システムが、うまく適応できるはずがない。ゆえに、今後の中国の経済成長率は、ガクンと落ちて見る影もなくなるはずだ。これが、経済の原理である。

 

過剰投資でGDPを押上げてきた中国経済は、全要素生産性(TFP)の伸びが、2007~12年に平均で年率1%を超えるマイナスを記録したという。「限界資本係数」が正常な国の倍である5~6にもなる非効率経済で、生産性低下が起るのは当然であろう。中国は、なぜこの事実に気付かなかったのか。経済官僚の責任と言うよりも、習氏が自己の権力固めを優先して「経済原理」を無視したに違いない。

 

(2)「中国はことし10月に建国70周年を迎える。旧ソ連がおよそ70年の歴史を刻んで崩壊したこともあり、習近平(シー・ジンピン)主席ら指導部としては大々的に祝賀ムードを盛り上げ政権の正統性を内外にアピールしたいところだ。これから10月に向けて、さらなる景気対策を打ち出していくことになろう。だが生産性が停滞したままだと投資を拡大しても効果は限られ、不良債権を膨らませる結果ともなりかねない」

 

旧ソ連は70年で崩壊した。圧政と統制の政治経済システムは、「短命」であることの証明であろう。中国が、その轍を踏まないという保障はどこにもない。今年は、設備投資循環で投資が10年間で最も落込む時期に遭遇している。この先の中国経済に何が起るか。興味深いものがある。