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中国が、「世界の工場」ともてはやされたのは昔のことだ。最低賃金の大幅引上げが続いて、中国での生産コストはベトナムの2倍以上に拡大している。例えば、昨年5月時点での調査で、月額賃金は広州537米ドル、ホーチミン238米ドルである。かねてから、中国脱出を狙っていた企業は、米中貿易戦争をきっかけで、ついに脱出を決断しているようだ。

 

不況対策で中には、計画的な解雇を行なう企業まで現れている。2ヶ月の有休休暇を与え、従業員を帰省させた後、メールで工場閉鎖を伝えるというもの。これでは、帰省した従業員が戻ってきて抗議活動するリスクも減るというのだ。

 

前回不況時の2015年には、従業員全員を一泊で遊園地へ遊びに行かせ、その間に経営者が機械設備を持出して、工場はもぬけの殻という「珍事」もあった。今回も、そろそろ経営者の「夜逃げ」が始るのでないかと、噂が広がっているという。

 

『ロイター』(1月18日付)は、「春節前の中国で相次ぐ工場閉鎖、貿易摩擦が雇用に影」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米中貿易摩擦の影響で受注が減った中国の製造業企業は、2月の春節(旧正月)休暇のずっと前から工場を閉鎖する例が目立っている。休暇明けも再開されず、廃業となる工場もありそうだ。東莞市の景気は目に見えて減速。多くの小売店や飲食店がシャッターを閉じ、一部の工場は閉鎖され、多くは賃貸に出されている。最近の週末の夕方、あるタクシー運転手は人のいないオープンエアの食堂を指し、『以前ならこの建物は労働者でいっぱいで、仕事帰りに食べてしゃべっていたのに、今はこの有様だ』と語った」

 

東莞市は広州と深圳、香港の中間に位置する。香港企業、台湾企業の委託加工先や工場建設の好適地として、衣料品、日用雑貨、玩具、電子製品、パソコンまで、重工業以外の各種工場が林立する工業地帯になった。特に、パソコン部品は世界の供給拠点として重要な地位を占めている。また、輸出に必要な包装用段ボールを製造するための製紙工業もさかんで、中国最大の工場群もある。この東莞市に閑古鳥が鳴いているという。

 

(2)「人口1億人以上の広東省は、GDPが1兆3000億ドルと中国最大で、オーストラリアやスペインに匹敵する規模。広東省の景気減速は、中国沿岸部に位置する輸出依存型の省すべてにとって悪い前触れだ。貿易紛争が長引けば、国全体の成長率を引下げることにもなりそうだ。UBS(中国)が最近、輸出事業に大きく関わる、あるいは輸出企業に納入している製造業企業200社を対象に実施した調査では、63%が米中貿易摩擦の悪影響を受けていると答えた。このうち4分の1は過去1年間に人員を削減し、37%は生産拠点を国外に移した。向こう半年から1年以内に拠点を移すと答えた企業も33%に上る」

 

広東は中国の輸出基地となっている。広東の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、中国製造業のシグナル役を果たしてきたが、余りの悪化に調査を中止させられるほどだ。「臭いものに蓋」である。中国政府らしい隠蔽である。

 

(3)「中国の製造業セクターは以前から、労働コストの上昇、規制強化、高技術生産や内需型経済への移行といった重圧に苦しんでいた。そこに米国が中国製品への関税を引き上げるリスクが出てきたことで、サプライチェーンの国外移転に拍車がかかった。今後数週間、恒久的に閉鎖する工場は増える見通しだ。専門家によると、倒産コストを背負いきれず、単純に姿を消す工場オーナーも出てきそうだ」

 

米中貿易戦争が、仮に一部の関税が解除になっても、もう東莞市に活気は戻らないだろうという悲観的な見方である。先のパラグラフで、輸出企業に納入している製造業企業200社を対象に実施した調査では、気になる結果が出ていた。

 

63%(126社)が摩擦の悪影響を受けていると答えた。

25%は、1年間に人員を削減した

37%は、生産拠点を国外に移した

33%は、向こう半年から1年以内に拠点を移す

つまり、126社中70%は国外脱出である。米中貿易戦争は、国外脱出への最後の背中を押したことになる。