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20年前には10億ドル足らずだったファーウェイ(華為技術)の売上高は、18年決算で1000億ドルに達したという。一方で、同社CEO任氏は社員へのメッセージで、「無制限に成長できる時期は終わった」と示唆したとフィナンシャル・タイムズが伝える。巨大企業が、どのように戦線を縮小するのか。

 

過去10年以上にわたり、CEO任氏の娘で副会長の孟晩舟氏はファーウェイを世界最大の通信機器メーカーへと変貌させるため、世界中を縦横に動き回ってきた。同時に、投資家や銀行家、各国政府に対し、ファーウェイが信頼できる企業であるとの安心感を与えようと努めてきた。そのキーマンが逮捕(目下、保釈中)されて、経営の第一線から離脱した。ファーウェイにとっては、これ以上の痛手はない。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(1月21日付)は、「ファーウェイ、5Gから排除で人員削減も」と題する記事を掲載した。

 

(1)「2018年12月、任氏の娘である孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が米国の身柄引き渡し要求を受けてカナダで拘束され、今月にはポーランドでファーウェイ幹部が中国情報機関のためのスパイ活動をしていたとして逮捕されたことで、同社に対する欧米の疑念はさらに深まった。ドイツは先週、5G通信網にファーウェイの機器を使わないとする方針を示し、締め出しの動きに追随した。米国では超党派の議員グループが、半導体などの米国製電子部品をファーウェイと中興通訊(ZTE)に販売することを禁じる法案を提出した。ファーウェイと競合するZTEに科していた制裁を再導入して拡大する内容だ」

 

昨年12月1日から、ファーウェイの「ツキ」は完全に剥がれ落ちた。この50日間で同社の運命を左右する大事件が次々に起っているからだ。これでは、いかに強気のCEOである仁氏といえども、経営危機感を覚えて当然であろう。

 

(2)「任氏は、幹部を対象とした18年11月の社内経営セミナーで先行きの厳しさについて注意を促した。拡大する危機への対応を強化する中、CEO室が1月18日に全従業員に同趣旨のメールを送り、同社のオンラインコミュニティーにも掲示した。任氏は『5G4Gのように簡単にいかないかもしれない』とした上で、『地雷が随所で爆発するかもしれない。たとえ至るところで大爆発することにならなくても、18万人の従業員を養う必要がある。賃金、給与、配当金は年間300億ドル(約3兆2900億円)を超える』と述べた」

 

18万人の従業員は、すべてファーウェイの株主である。これらの従業員に払う賃金、給与、配当金は、年間約3兆2900億円にも達するという。ファーウェイが、世界的な包囲網に囲まれた以上、戦線縮小を検討するのは当然だ。

 

(3)「仁氏は、メッセージでつぎのように語った。『私たちにとって、この300年間は順調過ぎた。戦略的拡大の段階で私たちの組織は破壊的な形で拡大した。各地の全ての子会社が効率的に活動できているか、慎重に見極めなければならない。総合的な勝利を達成するには、何らか組織を合理化する必要がある』。任氏が18年10月に人事担当幹部に宛てたメッセージも18日に従業員に送られた。その中で任氏は会社全体の『革命』を求めている」

 

(4)「また、『今後数年、全体の状況はおそらく思い描いていたほど明るくはならず、困難な時期に備えなければならない』と、任氏はメールで従業員に伝えた。任氏は、現実とかけ離れてしまった目標は見直す必要があるとし、『一部の凡庸な従業員の雇用を諦めて労務費を減らす必要もある』と述べた」

 

仁氏は、18万人体制の維持は困難と指摘している。「一部の凡庸な従業員の雇用を諦めて労務費を減らす必要もある」とズバリ、人件費圧縮の必要性を訴えている。賃金、給与、配当金は年間300億ドルにも達する。ファーウェイといえども、経営の限界に達したと仁氏は率直に語った。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月21日付)は、「ファーウェイの戦い、矢面に立つ創業者の娘」と題する記事を掲載した。

 

(5)「孟氏の逮捕によって、ファーウェイは世界中の主要金融機関との関係を築いてきたキーパーソンだった人物を失った。同氏はファーウェイの行動の秘密めいたベールをはがし、同社の透明性、独立性を世界に示す上で、重要な役割を果たしてきた。孟氏は、マダガスカルからミャンマーにいたるまで、ファーウェイが急速に事業を拡大した各地を日常的に訪問していた。バンクーバーで逮捕された際も、メキシコ、コスタリカ、アルゼンチン、フランスを回り、中国へ戻る予定となっていた出張の途中だった」

 

ファーウェイ副会長の孟氏は、最近、一冊の本も読めないほど多忙をきわめてきたという。7種類のパスポートを使い分けて海外活動に全勢力をうちこんできた。この副会長の活動が今、すっぽりと抜け落ちている。とりわけ、世界中の主要金融機関と密接な関係を持って資金調達に動いてきた。米国司法は、イランとの金融取引で規制に反したとして、逮捕容疑にしている。孟氏が当面、復活が望めないとすれば、ファーウェイの損失はきわめて大きいであろう。