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習近平氏は悩んでいる。昨年12月の輸出はドルベースで前年同月比4.4%減と16年以来最大の落ち込みとなったからだ。輸出は、中国の工業生産や雇用、GDPに直結する。それ故、輸出の急減は工業生産のかなり弱い伸びと失業率の急上昇を示唆している。

 

だが、ここで清水の舞台から飛び降りるような気持ちで大規模な景気テコ入れをすべきかどうか。米中貿易戦争が決着していない以上、いつ、さらなる「トランプ旋風」が吹き荒れるか分らない。目下は、気迷い状態であろう。



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『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月22日付)は、「中国経済の減速、対策に慎重な政府」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国の経済成長は一部の国に比べればなお力強いものの、この25年なかった水準に落ち込んでおり、今年はさらに悪化する見通しだ。2018年の成長率6.6%に対し、6~6.%の成長を予想するエコノミストもいれば、実際の成長率は既にその半分以下だとの見方もある。暗い見通しには大きな理由がある。今回の低迷に対する中国政府の取り組みが以前と違うことだ。違うのは、10年前の世界金融危機中に展開されたような超大型の刺激策だ。当時に比べると今回は指導層の動きが慎重だ。金融・財政緩和策に対して段階的なアプローチを採用し、過去の積極的な成長志向の政策『洪水かんがい式刺激』は避けている」

 

今年の中国経済には、明るい要因はゼロである。すべてマイナス材料ばかりである。貿易戦争が、どういう決着になるか、名うてのトランプ氏を相手に胸の内が読めないのだ。貿易戦争は、これまで中国へ進出し不平不満を貯めてきた外資企業に、一大決断をさせる機会を与えてしまった。脱中国である。中国に見切りを付けさせた意味で、トランプ氏は大きな役割をしている。

 

関税戦争が小休止したとしても、それは一時的なこと。米中貿易戦争は覇権争いであるから、中国が脱落するまで継続するはずだ。となると、中国市場に先行きの希望はない。外資系企業は、こういう読み方をしている。習近平氏の世界覇権論は、口が裂けても言ってはいけなかった言葉である。調子に乗りすぎたのだ。もはや、取り返しは付かない。

 

(2)「中国指導層の姿勢が変化した背景には、刺激策に関する選択肢が以前よりも限られているとの認識がある。過去の信用緩和や政府の放漫財政は成長を駆り立てたが、地方政府や国有企業を中心とした債務急増も引き起こした。指導層が少なくとも当面は自制している要因として、米中貿易摩擦の先行き不透明もある。中国政府は米中が合意に至らず関税合戦が再開した場合に備えて刺激策を保持しておくべきだと、中国政府の顧問らは述べた。政府系シンクタンク、国務院発展研究センターの王一鳴氏は『中国は最悪のシナリオに備えておくべきだ』と述べた。トランプ政権が中国にちらつかせている貿易措置を全て実行した場合、同国のGDP成長率は今年1.5ポイントも下押しされかねないという」

 

中国は、不動産バブル経済の崩壊後遺症の渦中にある。信用機構は死んだも同然である。銀行の手元預金残高の伸び率が鈍化して、信用創造能力が極端に低下している。ポンプで水をくみ上げたくても、井戸の水位が下がりすぎてしまっている。ここで、3月から関税戦争再開という事態になれば、中国経済は4%台の成長率へ低下する。国内は失業者の群で一杯だ。習氏の責任問題が出てもおかしくはない。

 

(3)「多くのエコノミストや投資家は、成長鈍化が行き過ぎたり速すぎたりしないよう、中国政府が万全を期すと見込んでいる。12月の中国共産党中央政治局の会合では、近づいている中華人民共和国の建国70周年に言及し、雇用の安定と成長を19年の最優先課題とした。同時に、金融システムのリスク制御策の続行を示唆した。香港のコンサルティング会社ギャブカル・ドラゴノミクスの中国アナリスト、チェン・ロング氏は『全般的な目標は成長加速ではなく、単に減速を止めることになりそうだ』と話している」

 


中国経済は、完全に防御態勢である。経済成長率の低下をどれだけ食い止められるか。この一点にかかっている。成長率を押上げようなどという前向きの材料はゼロである。最悪な事態で建国70周年を迎えるのだ。中国社会主義の優位論などという雰囲気ではない。清国末期の経済改革思想、「中体西用論」(中国の制度の中に西側の技術を取り入れる)は失敗した。中国社会主義の優位論も、「中体西用論」と同工異曲である。失敗の可能性が高い。