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マレーシアは危ないところで中国の食いものにされるところだった。中国の交通インフラ建設大手・中国交通建設が、マレーシアで受注していた200億ドル(約2兆1900億円)規模の大規模鉄道計画を取りやめると発表したと報じた。中国が、このマレーシア政府の申し出を受入れた裏には、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の取材で、中国政府の「悪だくみ」が暴露された結果だろう。

 

この鉄道建設計画は、マレーシア政府が主体的に取り組んだプロジェクトでなかった。マレーシア前政権のナジブ・ラザク首相(当時)やその周辺が、1MDB(マレーシア政府系ファンド)から多額の資金を横領したとされる疑惑について、米国などによる調査を中止させるため、中国が自らの影響力を行使することを申し出ていた不透明な案件であった。

 

この疑惑の多い1MDBについて、次のように報じられていた。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月8日付)は、「中国が『一帯一路』見返りに1MDB救済提案」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国当局者は、1MDBを調査していたWSJ記者の香港にある自宅やオフィスを盗聴することも提案していた。彼らに情報を漏らしたのは誰なのかを知るためだった。その見返りとしてマレーシア側は、中国の広域経済圏構想『一帯一路』に基づく巨額インフラ事業の権益を提案した。ナジブ氏は数カ月以内に中国国有企業との340億ドル(約3兆7000億円)の鉄道・パイプライン建設契約に署名した。中国の銀行がその資金を融資し、中国人労働者が建設作業にあたることになった」

 

中国政府が、嗅覚を効かして1MDBの横領事件をネタにマレーシアの前ナジブ政権に「一帯一路」建設と引き替え条件を出したことが暴露されたもの。相手の弱味につけ込む典型的な中国方式である。

 

(2)「ナジブ氏はこのほか、中国指導部との間で中国の軍艦をマレーシアの2つの港に停泊させるための極秘協議も始めた。この協議について知る2人の関係者が明かした。領有権争いを繰り広げる南シナ海での影響力拡大を狙う中国にとって、こうした入港許可は重要な特権となるはずだったが、これは実現しなかった」

 

中国が、言葉巧みにナジブ氏にすり寄り、中国の軍艦をマレーシアの2つの港に停泊させるための極秘協議も始めていたが成功しなかった。

 

(3)「WSJが各種資料やマレーシア現・元当局者とのインタビューに基づき、中国とマレーシアのインフラ事業を調査したところ、『一帯一路』構想の背後に働く政治的な力について詳細が明らかになった。同構想は約70カ国で港湾や鉄道、道路、パイプラインを建設し、中国企業に貿易やビジネスの機会をもたらす巨大な計画だ。米当局者は中国が同構想を利用して、発展途上諸国への支配を強め、『債務の罠』に陥らせる一方で、軍事的目的を前進させていると主張する。パキスタンやモルジブなどでは、一部の取引が中国に不当に大きな利益を与えているとして『一帯一路』関連事業を見直す動きが始まっている」

 

中国は、「一帯一路」で莫大な利益を狙い、同時に地政学的な利益を手にしようとしていた。マレーシアは、その橋頭堡になるはずだったが、ナジブ政権の追放で水泡に帰した。

 

(4)「米国の国家安全保障当局者は、中国がマレーシアで見せた動きは、同構想をテコにして地政学的戦略を進めようとする中国の最も野心的な試みだと捉えている。米国内の議論をよく知る関係者はこう話す」

 

中国は、「一帯一路」の主要プロジェクトがすべて瓦解した。習近平氏にとっては痛手であろう。もはや、中国の提案を真面目に聞こうという国がなくなったからだ。中国の提案の裏には、何か策略が隠されている。多くの途上国が気付いたのだ。

 

『レコードチャイナ』(1月27日付)は、「マレーシア、中国企業受注の大規模鉄道計画を取りやめ」と題する記事を掲載した。

 

(5)「米『ボイス・オブ・アメリカ 中国語版サイト』(1月26日付)は、マレーシアのアズミン・アリ経済相が、中国の交通インフラ建設大手、中国交通建設が受注していた200億ドル(約21900億円)規模の大規模鉄道計画を取りやめると発表したと報じた。記事によると、アズミン・アリ経済相は26日、マレーシアの東海岸と西海岸を結ぶ全長688キロの鉄道計画について、2日前に中止する決定を下したことを明らかにした上で、『コストが高すぎる。計画を中止しなければ、マレーシアは年間5億リンギット(約1327000万円)の利息を支払うことになる』と説明した」

 

建設費2兆1900億円に対して、年間132億7000万円の利息であれば、金利は6%強である。インフラ投資でこれだけ高い金利を支払えるはずがない。担保で何を狙っていたのか。中国のハゲタカ商法と言える。中国は、1MDBをもみ消してやると持ちかけ暴利を貪ろうとしていた。

 

(6)「記事は、この鉄道計画について『中国が推し進める“一帯一路”の重要なプロジェクトとみなされていた』とした上で、一帯一路について『中国は沿線国のインフラを改善し、世界に恩恵をもたらすと主張している。だが西側諸国の多くは懐疑的で、中国がこの計画を推し進めるのは、政治的影響力と軍事的プレゼンスを拡大するためという別の意図があるとみなしている。一帯一路が参加国に債務リスクをもたらしているとする批判も多い』と伝えている」

 

習近平氏は、姑息な手段で大儲けを狙ったが、マレーシアでは大失敗だ。中国の信用はガタ落ちである。こうして、「一帯一路」は風前の灯火となってきた。私は、後世の歴史家が習近平氏をどのように評価するか、非常な興味を持っている。