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中国の習近平氏は、自らの政治生命がかかっている事態に直面している。金融リスクの発生をいかに回避するか。それには、現在の米中貿易協議を是非とも成功させなければならない局面に追い込まれている。その意味で、米国のトランプ氏は有利に「ディール」を行える立場だ。

 

『ロイター』(2月23日付)は、「中国主席、金融リスク防止と安定成長の追求訴える」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は、中国経済の安定的発展を追求する一方で金融システムリスクの回避に留意するよう共産党幹部らに訴えた。新華社通信が23日に報じた。

 

(1)「中国経済の成長率はほぼ30年ぶりの低水準まで鈍化しており、政府は金融緩和措置や減税などの刺激策を打ち出している。新華社によると、習主席は22日に開かれた共産党幹部らの勉強会で、『安定成長に基づきリスク防止に注力する一方で、財政政策と金融政策のカウンターシクリカル(反循環的)な調整を強化し、経済が妥当な範囲で推移するのを確実にする必要がある』と述べた。また、金融リスク、とりわけシステミックリスクを防止・解消することは基本的な課題だと強調した。

 

習近平氏が、金融リスクの発生を極度に警戒していることは、中国経済が不動産バブル破綻という重大局面にあることを認めたことである。とりわけ、「システミックリスク」を防止・解消することは基本的な課題だと強調した点が重要である。システミックリスクとは、金融の連鎖倒産である。いわゆる金融恐慌の発生だ。中国経済もここまで追い込まれている点に最大の注意をすべきであろう。

 

(2)「李克強首相は20日、過去の景気悪化時に採用した『洪水のような』景気刺激策に頼らない方針をあらためて示している。 ただ、このところ弱い経済指標が相次いでいるため、景気が一段と鈍化するリスクを低減するために政府が支援策の実施を加速あるいは強化する必要があるかどうかが市場の関心事となっている。習主席は、中国の金融部門は実体経済に資金を供給すべきだとした上で、安定成長とリスク防止のバランスを取る必要があるとの見方を示した」

 

システミックリスクを防止するには、倒産リスクの高い銀行の資本を増強する以外に道はない。現在、中国人民銀行引き受けで危ない銀行に永久債を発行させている。社債市場で、永久債のリスクが高いとして購入を見送っているので、人民銀行が引き受けているもの。日本の平成バブル崩壊後に「日銀特融」が行なわれた。その中国版と見ればよい。

 

中国では、スマホの普及ですべての決済が行なわれている。これが、銀行預金からMMF(マネー・マネジメント・ファンド)へ資金を移動させた。要するに、銀行預金の伸びが急速に鈍化するという予想もしなかった状況になっている。これが、銀行の信用創造能力を著しく低下させ、中国経済全体の不況抵抗力を引下げている。スマホが、皮肉にも中国経済の寿命を縮めているのだ。

 

李克強首相は20日、過去の景気悪化時に採用した「洪水のような」景気刺激策に頼らない方針をあらためて示した。銀行の貸付け能力(信用創造能力)低下が起こっている現在、金融緩和を行なっても、必要な所へ資金が流れる保証がないことを意味している。

 

ここで援軍となるのが、米中貿易戦争が「平和協定」になることだ。先の米大統領と中国副首相の会談の際、中国側が習近平氏の親書を記者団の前で発表した。親書は、こっそりと手渡すのが常識である。それが、記者団の前で公表しているのは、中国国内向けの演出であろう。

 

『ロイター』(2月24日付)は、「トランプ米大統領、対中関税引き上げを延期、協議進展受け」と題する記事を掲載した。

 

(3)「トランプ米大統領は24日、週末の米中通商協議で「大きな進展」があったとし、3月1日に予定されていた中国製品に対する関税の引き上げを延期すると表明した。また、協議がさらに進展すれば中国の習近平国家主席と直接会談して最終合意を締結する考えも示した。大統領はツイッターで、知的財産権の保護や技術移転、農業、サービス、通貨など両国の意見対立があった分野で協議が進展したと明らかにした」

 

(4)「進展を受けて、『3月1日に予定されていた米関税引き上げを延期する。双方がさらに進展するという前提で、最終合意の締結に向けた習主席との首脳会談をマールアラーゴで開催するため準備を進める見通しだ」と表明した。

 

米中間の合意事項は、トランプ氏の意向で「覚書」でなく、「協定」に格上げされた。米国が中国に食い逃げされない予防線である。中国は、ここまで譲歩して金融危機発生圧力を減らし、習近平氏の政治生命を助ける挙に出てきたと読める。