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米中貿易戦争が始って約1年経つ。米国の要求が、ほぼ100%実現する形で決着する見通しが強まった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じた。

 

習近平氏は緒戦、「受けて立つ」と大向こうを唸らせるような見栄を張ったが、結末は全面敗北である。非が中国にある以上、この貿易戦争は長引けば、長引くほど中国が不利になるものだった。中国の民営企業家は、「トランプの言い分が正しい。トランプと友人になれる」と発言するほどだった。習氏の国営企業中心主義が、いかに間違っているかを証明するような話である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月4日付け)は、「米中貿易協議、最終段階入り、3月下旬に正式合意もー関係者」と題する記事を掲載した。

 

米中貿易協議は合意に向けた両政府の話し合いが最終段階に入っている。中国側は関税の引き下げに加え、米国から輸入する農産物や自動車製品などへの規制を緩和する方向。米国は昨年発動した中国製品への関税の多くを撤廃することを検討している。

 

にわかに信じられないような内容である。中国経済の現状が、いかに深刻であるかを間接的に物語っている。これが実現すれば、中国では民族派が大きく後退し、経済改革派が実権を取り戻せるのかもしれない。そういう意味で、今回の米中貿易戦争が持つ意味は極めて大きいであろう。

 

(1)「事情に詳しい関係者らによれば、2月にワシントンで開かれた協議を経て合意内容はまとまりつつある。ただし乗り越えなければならない課題もあるほか、両政府とも相手国に譲歩しすぎだとの反発が国内で広まる可能性がある。一方で事情に詳しい関係者らによると、依然ハードルは残るものの話し合いは進んでおり、327日頃に予定されている米中首脳会談で正式な合意が結ばれる可能性も出てきた

 

正式な合意となれば、トランプ氏は政治的に大きな得点になる。同時に、それは習近平氏の過激な民族主義に修正を迫る契機になろう。歴史の歯車は、独裁主義の後退を告げるものだ。

 

(2)「中国は合意の一環として、自動車合弁事業への外資出資に関する規制撤廃に向けた手続きの迅速化を約束する見込み。また輸入車にかけられている15%の関税を引き下げる意向も示している。中国はさらに、貿易不均衡是正を掲げるドナルド・トランプ米大統領にアピールするため、米国製品の輸入量も増やす予定。事情に詳しい関係者らによれば、その中には米シェニエール・エナジーから天然ガス180億ドル相当の購入も含まれている。米国は国内企業、特に国営企業を優遇する中国政府の方針を非難しているが、この点については交渉が継続中。またロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は先週、100ページ以上に及ぶ書類のうち、30ページ近くは知的財産権の保護に関する規定だと話していた」

 

中国は、早く決着したいという焦りが、米国への譲歩案となっている。中国の経済改革派の勝利=市場拡大を意味している。

 

(3)「米中の交渉担当者はさらに、米企業からの苦情を解決するメカニズムの構築を目指している。協議中のプランでは、紛争を裁定するため両政府当局者による2国間会合を開くことになっている。話し合いが合意に至らなければ、米国は関税を課す可能性があるとライトハイザー氏は警告している。他の関係者によると、米国側は仮に米政府が制裁を科すとしても、中国は報復しないことに同意するよう求めている。中国側にとってこれは大きな譲歩となる。中国の交渉担当者は19世紀に欧米列強が同国に課した不平等な条約と同じ結果にならないようにしたいと話している」

 

米国のライトハイザー氏は、強気の交渉である。かつての日本も鉄鋼交渉で、このライトハイザー氏に屈した経験がある。豪腕交渉家である。私は、当初からこの点を強調してきた。ライトハイザー氏を甘く見ていると、中国は大怪我をするはずと。非が中国にある以上、ライトハイザー氏に歯が立たないのだ。

 

(4)「米中交渉の『ワイルドカード』の一つが、ベトナムで開かれたトランプ氏と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談が物別れに終わったことの影響だ。米当局者は、提案内容が不十分だと思えばトランプ氏は拒否するということを中国の習近平国家主席が学んだはずだと期待する。その一方で、逆の教訓を得た可能性もあると懸念する。つまりトランプ氏はどうしても成果が必要な状況に追い込まれたということだ」

 

トランプ氏が、米朝首脳会談で席を立った効果は、米中首脳会談にも影響を及ぼしそうである。トランプ氏は、米中首脳会談でも同じ行動に出ないとも限らない。中国としては、最も避けたい場面だ。事前協議では一点の曖昧さも残さない合意が要求されている。中国には、それだけ負担が増える。