テイカカズラ
   

鄧小平が提案した「一国二制度」は、習近平氏が国家主席になって換骨奪胎されてしまった。現在の香港を見れば、それが明瞭である。約束を絶対に守らないのが中国である。米中貿易戦争が、中国経済の首根っこを抑えるほど、強烈さをもって迫っている理由は一つ。米国と交わした約束が一つも実現していないという冷厳な事実だ。

 

日本も騙された国である。東シナ海での日中境界線で2010年、石油の共同開発を行なう契約調印4日前に、大量の中国漁船を尖閣諸島に殺到させ紛争状態に持ち込んだ。この騒ぎで、契約調印は宙に浮いたまま。主犯は、中国人民解放軍と国営石油企業と判明している。利権の山分けが目的で始めた事件だ。日本が共同開発に参加すれば、利益の半分は日本に帰属する。中国人民解放軍と国営石油企業は、それが惜しくて騒ぎを起こしたもの。この利権は、「太子党」の手に渡っているに違いない。ここまで来ると、中国は近代国家とは言いがたい。蒋介石時代の「軍閥政治」と同じである。

 

台湾が、こういう中国の行状を見ていれば、「一国二制度」が台湾の自治を保証することなどあり得ない。「絶対拒否」は当然のことであろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月5日付け)は、「台湾蔡政権、一国二制度を受け入れず、中国全人代での報告に反発」と題する記事を掲載した。

 

2016年に発足した蔡政権は、独立志向を封印して中国との対話を模索したが、中国の圧力を背景に5カ国との外交関係を失うなど苦境にある。米国は、オバマ政権当時の「傍観主義」から、トランプ政権による積極的な「台湾支援」へと変っている。中国は、米中国交回復時に了解した「一つの中国論」を盾にして、米国の「台湾支援」を非難している。トランプ政権は、これにお構いなく支援姿勢を強めている。台湾海峡に米艦船を航行させており、台湾問題は米中問題にもなっている。

 

(1)「台湾の蔡英文政権で対中国大陸政策を担う大陸委員会は5日、「(統一の際に台湾側に高度な自治を保障するなどとする)『一国二制度』を絶対に受け入れない」との声明を出した。中国の李克強首相が全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、「一国二制度」を柱とする習近平国家主席の台湾統一戦略を強調したことに反発した」

 

台湾は、自由と民主政治が定着している。中国本土は専制国家である。専制国家が民主国家を併呑するとは、歴史の歯車を逆回転させるに等しい暴挙である。台湾市民が、自ら得ている自由を捨てて中国政府に監視される牢獄生活を選ぶはずがない。

 

(2)「中国の李首相は同日、全人代での政府活動報告で、「台湾独立をもくろむ分裂の画策に断固として反対し、食い止め、国家の主権と領土を保全する」と述べ、台湾独立志向を持つ民主進歩党(民進党)の蔡政権をけん制した。これに対し台湾の大陸委は声明で、中国が台湾の「主権と尊厳、民主主義体制を深く傷つけようとしている」と反発。「武力による威嚇や(台湾内部の)分断を図る誤った統一工作をやめることでしか、両岸(中台)の良き交流の助けにならない」とした」

 

中国の取り得る最後の手段は武力行使である。習近平氏は、自らの政権時代に「台湾解放」を行い中国史に自らの名前を残すことに執着している。ここ数年が、最大の軍事危機を迎えるであろう。自由陣営は、台湾市民を専制主義の生け贄にしてはならない。一人の国家主席の名誉欲のために、無辜の市民を巻き添えにしてはならないのだ。習近平氏に「台湾解放」を諦めさせる手法(具体的な経済制裁)を準備しておき、中国の経済活動を止めてしまうような強力な策を講じるべきだ。

 

香港は、「一国二制度」の犠牲になっている。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月4日付け)は、「さようなら香港、移住希望が急増」と題する記事を掲載した。

 

(3)「香港中文大の2018年調査では、18~30歳の若者のうち51%が海外への移住を考えていると答えた。17年の調査と比べて5.5ポイントも増えた。「政治的な対立が多すぎる」「人が多くて住環境が悪い」「政治制度に不満」――。移住を希望する理由の上位にはこんな項目が並ぶ。経済的な心配はほとんどないにもかかわらず「香港でどうやって幸せに暮らせるか分からない」と悲観する層が増えている。教育水準の高い人ほど移住を希望する人が多いのも最近の特徴だ」

 

自由という価値を知れば知るほど、中国から逃げ出したい。教育水準の高い人ほど、「脱香港」の傾向が強まるという。これは、台湾についても当てはまること。中国では、人間として生きる証が得られない。これほど、厳しい人生の選択があるだろうか。