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けさ、下記の目次で発行(有料)しました。よろしくお願い申し上げます。

 

中国経済に迫る4つの重力

ソ連は満69年で没落した

習氏が掲げた7つのリスク

韓国経済への波及が現実化

 

北京では3月5日から、年1回の全人代(国会)が開催されています。全国から集まった代表の宿舎には、今年始めて鉄条網が張られ、厳重な警戒体制が敷かれています。今まで見られなかった現象です。全人代では李克強首相が、最初に政府活動報告を行ないました。その際、横に座る習近平国家主席は李首相と目も合わせない冷たい仕草が写真とともに報じられました。両氏の「不仲」が理由のような内容でした。実際は習氏にとって、厳しい政府活動報告であることに忸怩(じくじ)たる思いがあったのでしょう。

 

昨年の全人代で習氏は、中国の指導者として絶対的な存在でした。国家主席の「2期10年」の任期制限を撤廃させ、終身支配への道を固めていたのです。「習近平思想」なるものまで掲げて他の追随を許さない立場を固めました。しかし、あれから1年後の現在、習氏を取り巻く環境は大きく変っています。中国経済が、急減速に見舞われているからです。昨年の春から始った米中貿易戦争が、大きな影響を及ぼしたからです。

 

中国経済に迫る4つの重力

私は、米中貿易戦争はきっかけに過ぎないと判断しています。それ以前に、中国経済が景気循環上で、設備投資循環(約10年周期)と在庫循環(約4年周期)が重なる下落局面にあることです。さらに、不動産バブル崩壊に伴う過剰債務が、「雪崩」のように覆い被さっています。ここへ、米中貿易戦争が加わりました。要するに、4つの重力が中国経済へ一度に集中して加わったと見るべきでしょう。これでは、中国経済が急減速して当然です。

 

米中貿易戦争は、3月中に予想されている米中首脳会談で決着の見通しが強まっています。中国経済に加わっている重力の一つが消えるだけです。また、米中貿易問題がこれで「一件落着」ではないのです。中国が、米国との約束を守らなければ、米国は一方的に関税を引き上げること。その際、中国は報復できないという協定ができれば、中国にとって手足を縛られる状態になります。

 

米中貿易戦争は、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以来、WTOルールを破ってきた総決算と見るべきでしょう。中国が、WTOに加盟できた裏には米国の強い支援がありました。それにも関わらず、WTO規則破りの常連国となり、技術窃取するという「悪行」の数々を重ね、GDP2位の経済にまで上り詰めたのです。このまま放置すると、米国の国益を損ねるという切羽詰まった末に起ったのが、米中貿易戦争の本質でしょう。

 

こう見ると、中国経済の運行軌道に赤信号が灯ったというべきです。WTOルールの完全履行を迫られる中国経済は、従来の速度を落とさざるを得ず「慣性の法則」が働き、大きな衝撃が加わります。「慣性の法則」について、卑近な例で説明します。乗り物が急停止すると乗客は前方に倒れそうになります。乗客は「慣性」によって前に動き続けようとしているのに、乗り物が止まってしまうからです。

 

中国経済は、改革開放政策(1978年)以来、過剰債務のレールを走ってきました。その結果が、対GDP比で約300%といわれる総債務残高を抱える事態になっています。この状態を改善するためには、債務返済を優先すべく経済速度を落とさざるを得ないのです。習近平氏は2012年の国家主席就任以来、逆に経済成長を優先しました。自らの権力基盤を固めるには不可欠だったのでしょう。これが、現在の中国経済にもたらした成長優先という「慣性」です。急減速によって、その衝撃は倍加されているのです。

 

ソ連は満69年で没落した

中国は、今年10月で建国70年を迎えます。中国が手本とした「ソ連」は、建国満69年で崩壊しました。戦争をして敗れ崩壊したのではありません。「ソ連式社会主義」経済が行き詰まったのです。中国は、「中国式社会主義」を標榜しています。中国式社会主義とソ連式社会主義とは、質的にどこが異なっているでしょうか。共通点を上げます。

 

1.   専制主義

2.   軍事優先

3.   領土拡張

4.   市場軽視

 

ソ連と現在の中国は、驚くほど一致点が多いのです。習近平氏は、毛沢東崇拝主義者ですから、習近平時代になれば毛沢東=ソ連型経済へ回帰して当然です。私の持論ですが、習近平氏が国家主席にならず、李克強氏がなっていたとすれば、鄧小平→胡錦濤→李克強とつながり、中国は軟着陸に成功したかも知れません。歴史に「if」はありません。(つづく)