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習近平氏は、5日からの全人代をどのような気持ちで迎えたただろうか。習氏は1月、党幹部に対して「7つのリスク」と称し強烈な危機感を訴え、幹部に共同責任まで問うたという。しかし、習氏は最高意志決定権を握っており、習氏に最高責任があることは明白。企業でも、社長に意思決定権がある以上、最終責任は社長が負うべきものだ。習氏は命令を下すが、責任を部下に取らせる。これでは、将たる器でないことを証明するような話である。

 

習氏は、経済危機である現在、その真価が問われている。軍拡に夢中になるよりも、内政充実に進まなければ、現在の経済危機は政治危機へ転化する恐れが強い。注意すべきは、不動産バブル崩壊後の経済停滞は不可避である。それは、日本経済がすでに経験済みだ。一帯一路や軍拡に資金を使うより、国民生活の充実こそが、最も重要な政策選択であろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月7日付け)は、「米中貿易合意、中国が切望する真の理由」と題する寄稿を掲載した。

 

筆者のジョナサン・コラッチ氏は中国や日本に関する著述が多く、著書に「China Mosaic」「At the Corner of Fact & Fancy」などがある。

 

(1)「中国の習近平国家主席は2012年にトップの座につくと、直ちに臨戦態勢に入った。習氏は自身が掲げる「チャイナドリーム(中国の夢)」構想について「中華民族の偉大な復興」だと定義付けし、外国の侵略者による屈辱の歴史、すなわちアヘン戦争や外国の統治領、日本による占領などを学校で子供たち一人一人にたたき込んだ。人心を掌握した習氏は、苦もなく共産党の「核心」に自らを指名し、任期上限を撤廃した。改正された党規約には「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という指導理念が盛り込まれた」

 

習近平氏は、民族主義者である。内政充実よりも外延的発展を重視している。これは、「中華民族の偉大な復興」という時代めいた言葉の中に現れている。中国が、帝国主義的な発展を志向していることは疑いない。この延長線上に、一昨年秋の「世界覇権論」が出てきたものだ。帝国主義的発展は、植民地論につながる危険な思想である。この季節外れの発言が出てきた点に、習氏の政治的な限界を見る思いがする。

 


(2)「ここにやってきたのが、米国の関税措置を引き金にした中国の景気減速だ。現実を政治スローガンで取り繕うことはできない。中国・西南財経大学の甘犁教授は、国内で6500万戸のアパートが空室のままだと指摘。「われわれは既に難しい経済状況にある。減速すればさらに悪化するだけだ」。中国政府が、ドナルド・トランプ米大統領との貿易ディールを切望するのは無理もない。もし中国経済がこれ以上ぐらつくならば、習氏の脳裏を離れない懸念、すなわち「不安定」に直面せざるを得なくなる。「中国の夢」が揺らぎ、中国の資金力が衰える中で、習氏が国民の機嫌をとり続けるためには並々ならぬ努力が必要となる」

 

中国は、国内に6500万戸のアパートが空室のまま、さらに不動産開発することの無益を考えるべきだ。景気への即効性だけを考え、インフラ投資に資金投入すれば、さらに債務を増やすだけで、信用機構への負担が増すばかりである。要するに、中国経済は二進も三進も行かない袋小路にはまり込む。ここは戦線整理の段階だが、選挙で選ばれた政権でないから、景気失速=政治不安に直結する脆弱性を抱えている。こうなると、民主政治の有難味が嫌と言うほど分る。それを言っても、今は繰り言でしかない。

 

(3)「国庫が乏しくなる状況では、巨額投資が必要な中国の2つの大規模プロジェクトの再評価と規模縮小は避けがたいだろう。一つは広域経済圏構想「一帯一路」だ。当初の狙いは中央アジアや中東、欧州にまで中国の影響力を広げることだったが、今では世界規模に拡大している。もう一方の「京津冀協同発展」は、北京市・天津市・河北省(京津冀)を1億人の住むメガロポリス(巨大都市圏)に発展させる計画だ。中国がすでに数百億ドルをつぎ込んだ「一帯一路」は各国の強い反発に遭っている。スリランカやエクアドルなどは今や、中国が仕掛ける「債務のわな」は仮面をかぶった植民地主義だとみなしている。仮に中国の経済成長がこの先も停滞すれば、習氏は壮大な構想を後回しにして生活の質の向上を優先するかもしれない。それこそ中国の庶民が最も切望することだ

 

「一帯一路」は、壮大な資金の無駄使いである。資金貸付先国家を「債務漬け」にして、中国の衛星国にでもするつもりでいたはずだ。腐敗政権に賄賂を贈り、相手国経済に見合わない建造物を建設して、植民地化する計画であった。この目論見は、相手先国民から拒絶されている。賄賂を掴まされた政権は、次々と選挙に破れている。こうして、中国の目指した「新植民地政策」は、失敗に終わったと見て良い。今後、中国の経常収支は赤字化が予想されており、「一帯一路」に回す資金はなくなるだろう。こういう中で取るべき政策は、外延的発展政策を止めて、自国民を大切にする「内政充実」策に戻ることだ。