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米中首脳会談は、3月下旬の開催が有力であった。だが中朝首脳会談後、風向きが変って来た。トランプ氏が、米朝首脳会談で席を立って物別れになったからだ。習近平氏が、金正恩氏と同じ立場になったら、メンツ丸つぶれになる。中国国内の習氏の威厳は急降下する。そんなリスクを負ってまで、3月中の会談をする必要はない、というものだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月9日付け)は、「米中貿易交渉行き詰まり、米朝会談決裂が伏線」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米中貿易交渉が再び暗礁に乗り上げている。中国政府の考えに詳しい複数の関係者によると、中国当局者は、両国の確実な合意案がまとまらないうちに首脳会談を行うことを躊躇している。1週間前、両国は草案での合意が間近と見られていた。だが関係者によると、先にベトナムで行われたドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談が決裂したことで、中国指導部に動揺があるという」

 

ベトナム・ハノイでの中朝会談では、トランプ氏が大向こうを唸らせる「千両役者」となった。正恩氏は、すっかりプライドを汚されたショックで、ミサイル発射の準備のような動きをして、トランプ氏の気を引き始めている。

 

中国は、この様子を眺めて「いい加減な気持ち」で米中会談に臨んだら「第二の正恩」になりかねない、と急に会談を警戒する姿勢になってきたという。

 


(2)「トランプ氏は米朝会談で協議を打ち切り、会談の場から立ち去る決断をした。関係者によると、中国当局者はこれを受け、習近平国家主席がフロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の別荘「マールアラーゴ」で今月中に会談に臨めば、一方的な要求をのむか拒むかを迫られかねないとの懸念を強めた。そのため、中国指導部の考えを知る関係者の見解では、中国側は米中首脳会談を模索するに当たり、崩壊する恐れのある最終的な交渉協議ではなく、署名式に近い形式的なものにすることを望んでいる

 

中国側は、最終的な交渉協議でなく「署名式」という軽いものにしたい意向を見せ始めた。これは、中国が最終的な「意志」を固めていない証拠だ。テリー・ブランステッド駐中国米大使は8日、米中貿易摩擦の解決に向けた首脳会談の日程はまだ決まっていないと述べた。両政府とも合意まで間近とは考えていないためという。米中の間には、まだ溝が残されている。その溝とはなにか。「中国製造2025」であろう。

 


『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月6日付け)は、「中国製造2025の退場、消えたのは名ばかりか」と題する記事を掲載した。

 

米中貿易摩擦の大きな火種となっていた「中国製造2025」が正式に表舞台から消えた。だが、姿を消したのは名称だけのようだ。

 

(3)「李克強(リー・クォーチャン)首相が5日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で100分近くにわたって行った政府活動報告では、中国製造2025への言及が全くなかった。ハイテク産業育成策である中国製造2025は、李首相が過去3年に行った政府活動報告では中核を占めていた。李首相は一方で、政府は先端製造業を推進すると表明。育成対象の新興産業として、次世代の情報技術(IT)や高性能機器、生体臨床医学、新エネルギー車などを挙げた。ただ、これらは中国製造2025でも重点産業として盛り込まれており、中国製品を優先購入する『バイ・チャイナ』と似た目標も掲げている」

 

李首相は、演説で「中国製造2025」という言葉が消えたものの、それに代わって「中国の製造業強化を目指す取り組みを加速する」(「バイ・チャイナ」)と表明した。これは、「中国製造2025」を継続する意味である。この発言で、中国が米国からの「政府主導経済モデル」変更への要求に応じない意志と見られる。

 

(4)「中国当局はトランプ政権からの圧力を受け、中国製造2025を外資系企業へのアクセス拡大を約束する新たなプログラムに置き換えることで合意した。苗ウ・工業情報化相は5日、記者団に対し、中国の産業政策は将来、『競争上の中立性』の方針を守ると述べた。競争上の中立性とは、トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の際に主張していた原則だ。この原則の下では、政府が国有企業を民間企業よりも優遇することを禁じている」

 

中国は、実質的に「中国製造2025」を継続する。だが、「競争上の中立性」によって、政府が国有企業を民間企業よりも優遇することはしないとしている。問題は、この「競争上の中立性」がいかに担保されるか。違反したら罰則はつくのか。ここが、キーポイントだ。