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文在寅大統領は、金正恩氏から「お節介者」とののしられても意に介さないようである。朝鮮半島の平和と非核化を目指し、何を言われよと我慢して南北会談推進に邁進の覚悟をみせている。文氏は、信念のゆえに現実の障害が目に入らないようだ。猪突猛進とは、文氏のためにある言葉であろう。だが、最終的に北朝鮮は、米朝会談で打開策を狙うであろう。文大統領の仲介余地はなさそうだ。

 

『聯合ニュース』(4月15日付け)は、「文大統領、金正恩氏の意志を高く評価 南北首脳会談を本格推進」と題する記事を掲載した。

 

(1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は15日午後、青瓦台(大統領府)で開いた首席秘書官・補佐官会議で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)が12日の最高人民会議(国会に相当)で行った施政演説に対して歓迎の意を表明し、北朝鮮の条件が整い次第、場所と形式にこだわらずに4回目の南北首脳会談を推進する考えを明らかにした」

 

文氏にとっては、国内経済が厳しい局面に追い込まれながら、根本的な対応策である最賃引上幅の圧縮ないし撤回を避けている。ひたすら,南北会談をテコに支持率回復を狙うというポピュリズムで生き延びようとしている。その意味では、正恩氏から批判を受けてもじっと我慢するのだろう。

 

(2)「文大統領は、金委員長が施政演説で朝鮮半島非核化と平和構築に対する確固たる意志を改めて内外に表明し、米朝対話の再開と3回目の米朝首脳会談を行う意向を示したと説明。『金委員長の変わらぬ意志を高く評価し、大いに歓迎する』と述べた。また『金委員長は、(昨年4月の)板門店宣言と9月の平壌共同宣言を徹底的に履行することで南北が共に未来へ進まなければならないという意志を明確にした』とし、『この点で南北に違いはない』と強調した。文大統領が金委員長の施政演説について直接言及したのは今回が初めて」

 

文氏は、米韓首脳会談で何の成果も得られなかった。その上、正恩氏と会談しても互いに原則論を延べ合う形で終わるのであれば、朝鮮半島問題は八方塞がりになる。そういうリスクを冒して、正恩氏と会談するのは余りにも無謀というほかない。

 

冷静になって考えれば分ることだが、北朝鮮が経済的にさらに追い込まれて、核放棄以外に生き延びる術がない。そういう事態が起らない限り、正恩氏が前向きになるとは思えない。文氏が、正恩氏を説得できる淡い期待は無駄であろう。金ファミリー3代にわたって堅持してきた「核保有方針」が、文氏の説得や南北交流事業で撤回するはずがない。文氏は、自らの支持率回復と来年の総選挙を意識して、南北問題を「オモチャ」にすれば、米国からさらに不信の目で見られることを覚悟すべきだ。

 

北朝鮮経済は、深刻な事態に陥っている。

 

『中央日報』(4月11日付け)は、「追い込まれた金正恩委員長 北朝鮮経済が揺れている」と題する記事を掲載した。

 

この記事によれば、北朝鮮経済は「陥落」寸前にある。乏しい外貨で食糧を輸入しているが、いずれ外貨も枯渇する。正恩氏は、「米朝首脳会談は12月まで」と時間を切ってきた辺りに、困窮する北朝鮮経済と関係がありそうだ

 

(3)「ハノイ米朝会談が決裂し、北朝鮮経済が揺れる状況だ。昨年下半期以降、平壌(ピョンヤン)のマンション価格(入居権)は半分に落ちた。鉄鉱石団地の茂山(ムサン)鉱山は浸水し、金策(キムチェク)製鉄所は中国産コークスの輸入がふさがって停止しているという。今年に入って主要国営企業も部品・資材不足で次々と稼働が中断している。さらに衣類賃加工輸出がふさがり、軽工業分野の雇用崩壊も深刻なレベルだ」

 

(4)「問題は、北朝鮮市場の為替レート・コメ価格・原油価格が安定を維持している点だ。国際制裁にもかかわらず、為替レートは1ドル=8000ウォン水準、コメは1キロあたり5000-6000ウォン、ガソリンは1キロあたり1万6000-1万8000ウォン水準で推移している。専門家は2つの解釈を示している。まず、国際制裁で商品の供給が減っただけに所得の減少で市場の需要も減ったという分析だ。しかしこれよりも説得力のある解釈は、北朝鮮が保有外貨を取り崩して生活必需品を輸入し、市場に供給しているということだ。実際、北朝鮮の対中貿易赤字は2017年から2年連続で20億ドルを超えている。しかしこうした構造は持続不可能だ。外貨が枯渇して北朝鮮経済が深刻な危機を迎えるのは時間の問題だ。
 

こういう切羽詰まった経済状況下では、すでに文氏の仲介段階を超えている。正恩氏は、米朝の直接会談で事態打開に動かざるを得まい。文氏という仲介者を挟んで交渉する時間がなくなってきた。その意味で、文氏の「出る幕」はなさそうだ。