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世界の自動車業界は、次世代カーをめぐって熾烈な競争を展開している。EV(電気自動車)が、明日にも主流になるという見方が浮上するともに、EV専用車の発売から遠ざかっていたトヨタの戦略に疑問を呈される場面もあった。実は、トヨタのHV(ハイブリッド車)が、EVの先駆的な技術である。このHVで蓄えたEV技術は、トヨタが世界最強である。今回、トヨタはHV技術を無料で公開する方針を決めたが、その裏ではEV技術の「世界標準」を目指す動きが秘められているのだ。

 

『ロイター』(4月15日付け)は、「トヨタ、特許開放呼び水に新事業、電動車コア技術の標準狙う」と題する記事を掲載した。

 

トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)で培った電動化技術の特許の無償開放を呼び水に、HVシステム外販と技術支援に乗り出した。HVの基幹部品・技術は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)にも活用が可能。量産によるコスト削減や投資抑制、電動化技術の「デファクトスタンダード(事実上の標準)」を狙い収益向上を図る。

 

(1)「寺師茂樹トヨタ副社長は、4月11日のロイターによる取材で特許無償開放の真意を強調した。「トヨタは完成車の提供だけでなく、これから『HV、電動車のシステムサプライヤー』になろうというのが大きな狙い。特許そのものはそれほど大きな収入になるとは思っていない」。トヨタは特許開放を機にHVシステムの需要が高まるとみており、量産効果でコストをさらに半減でき、日米中で検討しているHVシステムの生産能力増強などの「投資もかなり抑えられる」(寺師副社長)と期待する」

 

英IHSマークイットの調査によれば、世界の自動車需要はまだまだEVの本格出番を迎えないという。それに代わって、HVがシェアを大きく伸ばすと予測する。EVファンにとっては、失望するような予測結果である。トヨタは1983年に独自EVを開発するなど早くからEVに取り組んできた。だが、12年発売の小型車「eQ」を最後に量産車はない。世界中でEVシフトが強まる近年もHVに力を入れてきた。その裏にはHVがEV技術を取り込んでいるという自信があったのだろう。20年にトヨタとして8年ぶりとなるEV新製品を中国で発売する。

 

(2)「ある自動車メーカー幹部は、『トヨタの技術は、機構が複雑で高度な電子制御が必要。特許を無償提供してもらったところで、どの社も自前で開発する経営資源や量産ノウハウ、時間がないだろう。トヨタから部品やシステムを買ったほうが早い』と話す。SBI証券・シニアアナリストの遠藤功治氏は、何から何まですべて開発・生産する完成車よりも『システムサプライヤーのほうが利益率は高い』と指摘。1997年の世界初の量産HV『プリウス』発売以来、20年以上かけて磨いてきた電動車の『心臓』部品を他社へ提供するという戦略は『頭が良い』と評価する

 

(3)「三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、特許無償開放による仲間づくりによって国内外で部材調達面でのシナジーが見込まれるとし、HV関連部材のコストダウン効果は「中長期的に年間1000億円を上回る可能性がある」と試算している」

 

トヨタは特許開放を機にHVシステムの需要が高まるとみている。量産効果でコストをさらに半減でき、日米中で検討しているHVシステムの生産能力増強などの「投資もかなり抑えられる」と計算する。

 


(4)「EVの本格的な普及には電池の性能やコスト、航続距離、インフラ整備など課題がまだ多い。顧客にEVを選んでもらえるかどうかも大きなハードルで、各社は各国規制の目標達成のために、つなぎの技術であってもHVを無視できなくなっている。寺師副社長は特許開放を発表した4月3日の会見で、ここ数年で他社にも『電動化に向けての現実的な解は、HVだと十分理解され始めてきた』と話した」

 

EVには、超えなければならない山がいくつかある。それには、まずHVで助走を付けるほかない。その意味で、HVは救世主である。

 

(5)「世界で最も厳しい基準とされる欧州の規制は、30年に二酸化炭素(CO2)を今の規制値の半分に削減する目標となっている。寺師副社長は、目標達成には各社の販売台数の50%をEVなどのゼロエミッション車(走行時の排出ガスがゼロ)に置き換えなければならない。『EVは電池のコストが高いので、EVの比率が高ければ高いほど、企業の収益にかなり大きな(マイナスの)インパクトを与える』とみており、HVで極力CO2を削減し、足りない部分をEVで置き換えるのが一番現実的だと考えている」

 

大気汚染防止への現実解は、HVにならざるを得ない。モーター、パワーコントロールユニット(PCU)、電池という3つのHVの基幹部品のうち、トヨタはモーターとPCUの関連特許を無償提供する。これらの部品はEVやFCV(燃料電池車=水素自動車)でも共通で使われるため、PCUなら「この10年間で10倍くらいの(市場)規模になるのは間違いない」(寺師副社長)。HVからの「仲間づくり」が将来に向けてもいっそう大事になるのだろう。この仲間づくりが、EV技術の世界標準になるというのがトヨタの基本戦略である。HVという独自技術の開発が、EV技術の基盤技術になるとき、日本発技術が世界に貢献することになろう