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世界が米ソ冷戦後に驚いたのは、ソ連経済の惨憺たる姿であった。膨大な軍事費の圧力に民間経済が疲弊しきっていたことだ。

 

舞台は変って、米国の前に4000年の歴史を誇る中国が登場した。孫子の兵法を用いれば、米国へ軍事的に勝てるという妙な自信を漲らせている。こういう中国の宣伝は、世界中にかなり浸透している。中国の実力を過大評価させているのだ。私は2010年5月から毎日、中国経済の動向を追い記事にしてきたが、現状は相当に疲弊してきたと見ている。

 

中国は、いくら情報管理を強化しても、断片的に伝わってくる事実を繋ぎあわせただけで、米国と戦える経済力を失い始めている。中国のGDPは「水増し」している。この事実も世界の著名なシンクタンクによって解明された。この水増し分を取り除き、先進国並みのGDP計算法(前期比ベース)に引き直せば、今年の1~3月期のGDPは、年率4%成長に過ぎない。過大評価に値しない減衰ぶりだ。今後はさらに落込む。米国を追い抜くことなど不可能だ。

 

中国の「主要産業」は、不動産開発である。GDPの約30%を支えるこの産業は、土地あってこそ成り立つ産業である。実は、その宅地開発適地がなくなってきた。14億人弱の国民を養うに必要な農地が不足している。これ以上、農地を潰してマンションを建てる訳にはいかないのだ。ましてや、米中関係が怪しくなってきた。中国が南シナ海で領土拡張して、米国のみならず、先進国全体の警戒心を高めてしまった。因果はめぐるで、中国本土に立てこもらざるを得ない事態を迎えている。

 

この事態を招いたのは習近平氏である。側近である民族主義者の奢りに乗せられて、米中貿易戦争を受けて立ってしまい、大損害を被る事態になった。私は、トランプ氏がただの貿易赤字削減だけに満足する「凡愚な大統領」には見えないのだ。

 

最初はそうだとしても、米議会が超党派で中国強硬派に転じている。トランプ氏が、宙ぶらりんな妥協をしようとしても不可能なほど、米国内は対中一枚岩になっている。これを招いたのも習近平氏の大言壮語(世界覇権論)である。

 


『フィナンシャル・タイムズ』(4月11日付け)は、「
米中関係、まだ来ぬ最悪期」と題する記事を掲載した。

 

(1)「かなりの急展開だが、理由は簡単だ。両国が合意すれば世界の景況感が高まるだろうし、1年半後に大統領選を迎えるトランプ氏がそれを見逃すはずはないからだ。中国から譲歩を引き出せば、有権者に立派な政治家だという印象を与えられるかもしれないのだ。だが米中冷戦の回避を祝う前に、真の米中対決はトランプ大統領の退任後にこそ起こると想定してみたらどうか。現在、衝撃的と思われている米中摩擦が、後世にはむしろ穏やかなものに感じられるようになるかもしれない

 

下線を引いた部分は、興味深い指摘である。だが、この前提には、中国経済が今後も「健在」という仮定を置いている。世界バブル史の中で、唯一カムバックできた国は米国だけだ。オランダ、英国、日本はことごとく敗退した。米国の強さは、類い希な市場開放によって優勝劣敗の原則が生き続けていることだ。市場が、非合理的な存在を許さないという鉄壁の役割を果たしている。

 

これから挑戦しようという中国はどうか。まだ、不動産バブルにしがみついて、住宅ローン条件を緩和し生き延び策を考えている程度である。この中国が、バブルの淵から生還できると見ているとすれば、世界経済史について盲目という批判を受けるであろう。

 

中国経済は、WTO(世界貿易機関)から2016年に「非市場経済国」と烙印を押されてままだ。市場ルールを生かして自ら生き延びる力を持てない国である。政府の補助金なしで自立できない経済が、米国に対して覇権をかけた競争など挑むのは不可能。月に石を投げるような話だ。この非現実性を理解しないで、中国の経済力を過大評価した、中国超大国論など成り立たないであろう。

 

(2)「経済以外の分野では、トランプ氏は米大統領として一般的に考えられるほど、中国への警戒心が強くないようにみえる。経常赤字は常にいかなる場合でも負けの証拠だと思い込んでいるが、それだけだ。他の信条を持ち合わせていないため、そうしたことで中国と向き合うことには興味がない。大統領は例えば(人権などの)中国の内政問題やアジアの米同盟国が直面する安全保障上の脅威、中国のアフリカ諸国への投資拡大による経済支援攻勢、従来の国際機関の影響力低下、民主主義と一党独裁体制のせめぎ合いなどには全くといっていいほど関心がない。米中はこうした問題で今後何十年も対立する可能性が高い。逆に言えば、トランプ氏の「偏狭さ」が超大国間の緊張のエスカレートに歯止めをかけているといえる」

 

米国が現在、中国に対して貿易問題以外に目立った動きをしないのは、経済に集中する戦略にほかならない。近々に、米中貿易戦争はひとまず矛を収める。議会が、次の問題として人権問題を準備している。中国の責任者の責任追及を検討している。安全保障問題では国防権限法を使って、中国企業の締出しに動いている。米議会を強固な中国警戒論でまとめたのはトランプ氏である。オバマ氏ではなかった。この点を見落とした議論は片手落ちである。米国は、自らの覇権を狙う国に対して絶対に容赦しない。そういう歴史を持つことを忘れた議論はナンセンスだ。