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米中通商協定は、署名を待つばかりの段階を迎えたようである。USTR(米通商代表部)のライトハイザー代表は、すでに日米協議に席を移した。このことが、間接的に米中貿易戦争の終結を伝えている。

 

激しいやり取りがあった米中通商協議が終わった後、米中双方は従来通りの投資スタンスに戻るだろうか。米企業から、「10年間は不可能」という意見が出ているほど。なかなか元の姿には戻らないという予測である。それどころか、貿易戦争中に始まったサプライチェーン再編成で、中国から生産拠点の移転が始まっている。

 

米中貿易戦争の裏には、米中の覇権問題が絡んでいる。中国が、米国の覇権を奪取すると宣言した以上、これからも米国はことあるごとに中国へ厳しく対応するだろう。こうなると、米中間の貿易トラブルは今後とも起こりうる。そのたびに、米国側から関税引上げのペナルティを持出されるだろう。米国企業は、こうしたリスクを回避すべく対中国投資を見合わせ、他地域での生産を始めると見られる。

 

中国経済は現在、不動産バブルに伴う過剰債務を抱えている。この苦しい段階で、サプライチェーン再編成が起れば、「世界の工場」というこれまでの地位する失いかねない事態だ。米国の大手IT企業は、脱中国の動きを見せている。中国が、米中貿易戦争で払う代償は余りにも大きいことがしだいに判明するだろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月22日付け)は、「米中企業の凍えた投資 通商合意でも遠い春」と題する記事を掲載した。

 

米中貿易摩擦の解決を目指した交渉は現在、合意案の作成段階に入っている。合意が成立すれば、中国に進出している米企業の待遇が改善され、農産物やその他の米国産品に対する中国の買い付けが増えるはずだ。しかし、混乱する米中双方の企業は、かつて活況を呈していた両国間の投資活動の性急な再開には慎重になっている。

 

(1)「対中投資を専門に扱う法律事務所、ハリス・ブリッケンのマネジングパートナーであるダン・ハリス氏は、『米中間の合意がどんな内容になるにせよ、両国の誰もが“ただの冗談だったんだよ”と言うようには決してならない』と指摘。『関税、逮捕、脅し、リスクの高まりなどが企業に与えた影響は消え去ることはない』と語った」

 

米中は最後に握手して協定書に署名するが、相互不信の念は早急に拭えない。

 

(2)「ピーク時の2016年には600億ドル(約6700億円)だった米中間の投資額は、昨年はわずか190億ドルに落ち込んだ。こうした減少をもたらした要因は貿易紛争だけではない。中国政府は資本流出に歯止めをかけている。一方で米当局は中国企業に対し、国家安全保障上の懸念を抱いてきた。対米外国投資委員会(CFIUS)は、中国側を戦略的に優位にする可能性がある米企業への投資を阻止したり、解消させたりしてきた。その対象にはソーシャルメディア企業も含まれている」

 

米国は、安全保障上の理由から中国資本への警戒観がきわめ強い。対米外国投資委員会(CFIUS)によって、一々チェックする手はずとなっている、

 


(3)「貿易戦争の停戦が視野に入ってきたとはいえ、ビジネス界には依然として不透明感がある。在上海米商工会議所が2月末に行った調査では、会員企業の65%が米中の緊張関係が企業の長期戦略に影響を及ぼしていると回答。4分の1近くは中国への追加的な投資を遅らせていると述べていた」

 

在上海米商工会議所の調査では、米中関係がこれからも緊張すると見ている。中国への追加的投資に25%の企業が慎重である。

 

(4)「カリフォルニア州ポモナに本拠を置くシンプラスは、四川省の成都から素材を調達しており、中国にオフィスを構えているほか、現地で複数の豚革なめし工場と提携している。シンプラスの顧客の一部は、関税を回避するため、使う素材を中国産の豚革からパキスタン産のラム革に切り替えた。同社も競争力の維持と将来の関税回避のため、ベトナムのサプライチェーンへの投資を検討し始めた。米アパレル・履物協会(AAFA)のリック・ヘルフェンバイン会長は、シンプラスのような企業が直面する事態が貿易摩擦を象徴していると指摘。貿易摩擦が、『サプライチェーンを変えさせた。少なくとも10年間は元に戻らないだろう』と語った」

 

今回の米中貿易戦争で、中国が一方的に被害を被った。ユーザーが、仕入れ先を中国から他地域へ変えてしまったことだ。一度、移ってしまった取引先は簡単に戻らない。ビジネスとは、そういうものなのだ。世界の工場と豪語してきた中国が、はたと気付いたら、顧客が離れてしまっていた。習近平氏の強気が招いた大失策である。