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人口14億人のトップ、中国国家主席の習近平氏に健康不安説が囁かれている。国家主席として君臨するが、後継者が決まっていない異常な政治体制にある。「万一」の場合、中国国内の混乱は避けられない。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月25日付け)は、「習氏に健康不安? 後継巡り内部闘争懸念も」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は先月の欧州歴訪で、歓迎式典から晩さん会まで数々の表舞台に立ち、指導者としてのイメージを高めた。だがその背後で、習氏の異例の「足取り」が一部の注目を集めていた。イタリア、モナコ、フランスを訪問する習氏の様子を伝えるテレビ報道では、足をやや引きずりながら、儀仗(ぎじょう)隊に迎えられ現地を視察する習氏の姿が映し出されている。エマニュエル・マクロン仏大統領との会談では、習氏が両腕で椅子を握り、自身の体を支えながら着席する様子が報じられた。

 

(1)「これを受け、政治に関心がある中国人や海外の外交筋、中国問題の専門家などの間では、6月で66歳になる習氏を巡り、ひそかに健康不安説がささやかれ始めた。臆測は海外の中国系通信社にも波及し、ソーシャルメディア上では、捻挫から痛風までさまざまな臆測が飛び交っている。ある元政治学教授は、中国知識人の間ではソーシャルメディアの非公開チャットルームで『ちょっとした議論』が起こっていると話す。『誰も多くは語らないが、互いに暗黙の理解がある』という」

 

習氏の健康不安の原因としては現在、ねんざから腰痛までと軽い病状がささやかれている。ただ、今年6月で66歳を迎える習氏だ。中国社会では平均55歳定年制だから、「何か持病でもあるのか」と話が拡散される要因を持っている。

 

(2)「仮に習氏が職務遂行不能な状況に陥った場合、かつて毛沢東氏の独裁体制を見舞ったような激しい内部の権力闘争が再燃する恐れがある。中国の歴史学者、章立凡氏は、習氏の後継体制を巡る不透明感が「政治制度と社会に対するリスクを増幅する」と指摘する。「後継者を指名しなければ、指導者は病気になることも、職務の遂行を妨げるような問題を抱えることも許されないという危険がある」とし、これがうわさを助長し、求心力の低下を招くという」

 

習氏が突然、国家主席を辞任する事態になればどうなるか。当然に、党内は混乱する。習氏を支える毛沢東派と経済改革派が激突する。中国経済は、米中貿易戦争によってその弱点が明らかになった。これをいかに修正するかだ。これを阻もうとする保守派が、経済改革派に総攻撃を加えるに違いない。

 


(3)「2カ国の情報当局者と最近接触したというある研究者は、とりわけ習氏が昨年、任期撤廃を通じ『終身主席』に道を開いて以降、海外の情報当局が習氏の健康状態を注視していると話す。『彼らの懸念は、共産党が熟考された後継計画を策定していないことだ』とし、『習氏に何かが起きた場合にどうなるのか、われわれにも分からない』と述べる。多くの一党独裁政権と同じように、中国共産党は指導者交代に関する明確な規定を欠いている。指導者ポストが空席となる不測の事態が起こった場合の後継順位や手続きを定めていないのだ」

 

中国では、指導者交代について明確な規定がない。毛沢東時代は、この弱点が現れて混乱を生んできた。仮に、習近平氏の健康に問題が起った場合、毛沢東時代の混乱へ戻るリスクを抱えている。重大な政権移行システムのない中国政治は、前近代的と称せざるを得まい。この状態で、世界覇権などと叫んでいることに、ますます驚くほかない。

 

(4)「歴史学者によると、共産党は新指導者の選定プロセスを制度化していないため、1世紀近くにわたる党の歴史において、激しい政治闘争を引き起こしてきた。習氏はまさにこれを体現しているかのようだ。習氏は2012年に権力を掌握して以降、共産党が掲げていた集団指導体制を覆し、意志決定を自らの手中に収め、自身をカルト化して個人崇拝を醸成した。2017年には、主席任期の撤廃に動く前に、後継候補を指導部に昇格させることを拒んだ

 

習氏が普通の市民感覚であれば、下線を引いたような振る舞いをするはずがあるまい。これは、習氏を利用して権力のもたらす利益を私益化しようというグループがいるはずだ。私は、この人物こそ党内序列5位の王氏と見ている。彼は、江沢民、胡錦濤の知恵袋として活躍し、さらに習近平の懐刀となって、これまですでに27年間も権力の密を吸ってきた人物だ。

 

私は、党内序列5位の王氏を最も危険な人物と判定する。彼は、中国の「ラスプーチン」であろう。習氏は、この王氏によって政策ミスを冒している。一帯一路、南シナ海進出、経済政策奪取、さらに国家主席の任期制廃止まで、王氏の止まるところを知らない権力欲によって、習氏は踊らされているのだ。習氏の健康不安説は、中国政治の脆弱性を余すところなく浮き彫りにしている。