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北京では、27日まで「一帯一路」第2回フォールムを開催中である。話題の焦点は金融である。中国からいくら借り出すか。発展途上国は鵜の目鷹の目で見ている。だが、人民元を借りる訳でない。米ドルである。

 

中国は、これまで「一帯一路」に約4400億ドル融資したと正式に発表した。この融資に使った米ドルは、中国の4大国有銀行が主なドルの借り手になって調達してきたのであろう。ここに異変が起こっている。中国銀行が、ドル資金不足に陥っているというのだ。これには、中国の経常収支黒字の急速な減少も影響しているだろう。これまでにない「ドル不足」は、中国経済のアキレス腱を予感させる。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月24日付け)は、「中国の銀行がドル不足 『異変』に要注意」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国の大手商業銀行は、当局の管理が及ばないところで資金調達に不安を抱えている。国内外で必要とするドル資金が足りなくなっているのだ。中国大手商業銀4行の年次報告書によると、2018年末時点のドル建て債務はドル建て資産を上回り、数年前から状況が一変した。2013年時点では、4行の合計ドル資産が債務を約1250億ドル(約14兆円)上回っていた。しかし現在では貸し付けよりも、債権者や顧客から借り入れたドル資金の方が多い

 

4大国有銀行が、ドル資金の債権・債務関係が逆転して、貸付よりも借入が増えている事態になった。顧客がドル資金の引き出しに来れば、最悪の場合、即時の払い出しに応じられないという厳しい局面になっている。この事態は、金融機関にとって「信頼」という生命線に傷がつくばかりでなく、最終的には政府の外貨準備高の取り崩しにまで発展する。

 

ドル資金の債権・債務関係が逆転した理由は、焦付け債権の発生であろう。「一帯一路」に4400億ドルも融資した裏には、「債務漬け」で不良債権化したものが相当含まれている。その多くが、中国銀行経由の貸出になったのだろう。中国銀行は1905年に清朝政府によって創立された銀行で、後に外国為替銀行となり、現在の商業銀行へ転換した。こういう歴史から、海外貸付の窓口になっているが、「国策」(一帯一路)の犠牲になっている面もあろう。

 


(2)「こうした変化をもたらした最大の要因は中国銀行だ。かつては中国の銀行の中でドル建て純資産が最も大きかった同行だが、2018年はドル債務がドル資産を700億ドル程度上回った。実のところ、他の3行は昨年末時点でドル資産がドル債務を上回っていた。だ、中国工商銀行(ICBC)は2017年末時点では、ドル債務の方が多かった」

 

2018年末の4大国有銀行の米ドル純資産(資産-負債)は次のようになっている。データは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月24日付け)

 

中国建設銀行  +47億9000万ドル

中国工商銀行  +17億6000万ドル

中国銀行   -723億6000万ドル

中国農業銀行 +163億4000万ドル

合計     -494億7000万ドル

 

2018年末で、4大商業銀行は合計で約500億ドルの焦付け債権を抱えている計算だ。これは、いくら国策による貸出とはいえ、本来であれば政府資金を貸付けるべきであった。中国は、国家の行なうべき経済行為を国有企業に肩代わりさせ、国家財政を身ぎれいにするという「見栄」を張っている。

 

(3)「中国銀行は年次報告書で、資産と債務の不均衡は、バランスシートにはないドル資金で十分に対処されていると説明した。通貨スワップやフォワードなどの金融取引は他で計上されている。だが簿外の貸し出しは不安定だ。国際決済銀行(BIS)が指摘しているように、通貨デリバティブの大部分は期限が1年未満となっている。つまり、契約を常に更新する必要があり、圧力が高まれば消滅する恐れもある」

 

中国銀行の年次報告書では、資産と債務の不均衡は、バランスシートにはないドル資金で十分に対処されていると説明している。だが、にわかに信じがたいのだ。2018年になって突然、バランスシートにない取引でカバーしている理由がないからだ。