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日米関係が濃密さを増している一方で、米韓関係は冷え切っている。その象徴的な事例は、それぞれの首脳会談の時間に表れている。日米首脳は、ゴルフをしながら重要問題を話合っている。米韓関係では、側近が一対一になる時間をできるだけ短くしており、ついに「2分間」という屈辱的な扱いになった。

 
この日米と米韓の際だった違いは、韓国文大統領に「外交常識」が足りない結果と言えよう。対北朝鮮政策で、米韓の対応は180度の違いがある。韓国の融和策と米国の厳重な制裁論維持が噛み合っていない結果だ。文氏の「民族的な感情論」が優先している。

 

この「民族的な感情論」が、日本に向けられると「積弊排日」となって、日韓関係は荒れ狂っている。74年前の日本統治に悪感情を込めて、これでもか、これでもかと悪口雑言を込めて投げつけてくる。これが、韓国の国益増進つながるはずがない。日韓の国民を一層、離反させるテコにしかならないのだ。文氏にはそれが分らないのだ。

 

『朝鮮日報』(4月28日付け)は、「文-安倍に韓日関係の改善は望めない」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の金大中(キム・デジュン)顧問である。

 

(1)「文在寅(ムン・ジェイン)政権が対北朝鮮、対米外交に没頭する間、韓国は国益をめぐる重大な損失を一つ忘れている。それは対日関係だ。文政権で韓日関係は過去最悪の状況に陥っている。文大統領は機会があるたびに『親日』を積弊(積み重なった弊害)と決め付けて攻撃し、反日へと国民感情をあおっている。強制徴用問題に司法が加勢し、全国民主労働組合総連盟(民主労総)が銅像問題で公権力を屈服させるなど韓国では時ならぬ反日ムードが盛り上がっている。

 

(2)「何のためだろうか。まず大韓民国の建国勢力である李承晩(イ・スンマン)など右派政権の正統性を消し去り、文在寅政権に大韓民国臨時政府を継承する嫡子(ちゃくし)の地位に据えるための歴史の歪曲(わいきょく)が目的だ。そのためには過去の右派政権を親日、反統一分断勢力として売り渡す必要がある文大統領が「パルゲンイ(共産主義者)」という言葉と「親日」という単語を同時に使う理由はそこにある。反日は歴史を消し去るための道具だ」

 

文氏は、韓国における政権は左派=南北統一をめざすものが正統であるという認識を打ち立てようとしている。これが定着すれば、左派政権が定着して右派政権の誕生を阻止できると見ているのだ。だから、万難を排して右派=親日として一括りにしなければならないと決意している。党利党略の政治目標である。

 


(3)「先週ワシントンでは米日の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)が開かれ、両国の密接な協調が如実に見て取れた。両国は北朝鮮をめぐり、FFVD(最終的かつ完全に検証された非核化)と対北朝鮮制裁の全面的履行を促すなど過去のいつよりもまして親密さと結束を強調した。トランプ大統領は日本を『インド太平洋戦略』の最も重要なパートナーと位置づけ、中国をけん制する防波堤として利用している。日本にF35ステルス戦闘機の気密を提供することを決めたとの報道もあった。安倍首相はわずか数カ月の間にトランプ大統領と3回も会い、個人的な関係を深めている」

 

朝日新聞は、日米首脳の親密化を安倍首相の「抱きつき外交」と汚らしい形容詞を付けて、その意味を矮小化させようとしている。この狙いは、日本が米国へ接近して、中国と離間することを恐れている結果である。朝日は、中国の利益増進が日本の利益になるという判断だが、これは明らかに中国の戦略を見誤っている。中国を美化し過ぎているのだ。戦前、朝日記者はソ連のスパイを働き死刑になった。同紙には、こういう日本の国益を損ねて喜ぶ伝統があるのだろうか。

 

(4)「現在米国では文在寅政権のアイデンティティーに疑問の声がある。対北朝鮮制裁の解除に熱心な文大統領が果たしてどちらの味方なのかという批判があることを考えれば、米国は資金を握る日本を対北朝鮮交渉の代打に立てる可能性がある。金正恩にとっては「米国なき文在寅」が何の役に立つだろうか。経済的に窮地に追い込まれた金正恩としては、「米国なき文在寅」よりは米国をバックにした「カネがある安倍」の方を必要としているかもしれない」

 

(5)「全体的な構図を見れば、韓国は『わが民族同士』という見栄えが良いスローガンの下で韓半島(朝鮮半島)内部に委縮し、中国大陸の周辺国に転落する状況なのに対し、日本は日本列島を米国の対アジア戦略の防衛ラインとし、中国と向き合うことで、アジアの盟主としての勢いを強めている。韓国があらゆる面で有利な位置にあればともかくだ。今韓国には日本が恐れるような武器もなければ、使えるテコもない」

 

『朝鮮日報』は、朝日新聞よりも冷静に中国の戦略を見抜いている。文氏の外交戦略は、朝日に近いようだが、現実的な戦略とは言えまい。朝鮮日報のそれが、はるかに現実的であるのは、朝鮮半島という地政学的なリスクを抱えている反映である。私は、同紙の外交論に注目している。