a0001_001089_m
   

文在寅大統領は、本当に「ボンボン」である。北朝鮮の金正恩氏の言い分を額面通り受け取っているからだ。人生60代と言えば円熟味が増して、酸いも甘いも噛みしめるもの。文氏は、まだ30代の正恩氏の手玉に取られている。緊張緩和を目的とする南北軍事合意書で、正恩氏に騙された形だ。

 

『朝鮮日報』(5月13日付け)は、「韓国軍は専守防衛の韓国自衛隊と化すのか」と題する寄稿を掲載した。筆者は、シン・ウォンシク元合同参謀本部作戦本部長・予備役陸軍中将である。

 

この寄稿によると、文大統領の防衛観は軍事的に素人同然であることが分る。日本流の「専守防衛」は軍事的に意味を持たない。反撃演習と大規模野外機動訓練があって、抑止力を発揮できるからだ。文氏は、北との関係を重視する余り、韓国国防軍の軍事力を削ぐ方向に動いていると警告する。日本の防衛問題を考える上でヒントが得られよう。

 

(1)「625戦争(朝鮮戦争)以降、韓国が平和と繁栄を謳歌(おうか)できていたのは堅固な連合防衛体制のおかげで、その根幹は合同演習・訓練だった。ところが、その根幹が丸ごと揺らいでいる。何よりも、反撃演習と大規模野外機動訓練、そして韓国政府・韓国軍がそろって参加する国家総力戦演習が中断されたのは最大の問題だ。韓国政府は『中断ではなく変更されたのであって、むしろ連合防衛力は向上した』と強弁するが、これは『金正恩(キム・ジョンウン)の核放棄の戦略的決断』に次ぐ大うそにほかならない」

 

スポーツ選手は、練習試合をしなければ試合のコツが分らない。それと同様に、軍隊も実戦訓練である反撃演習と大規模野外機動訓練が不可欠である。文大統領は、これを行なうと北を刺激すると遠慮している。だが、今回の2回にわたる北のミサイル発射は南北軍事合意書に違反した行為である。北の違反を放置して、韓国だけが守っていることは、韓国の安全保障に重大な危機を及ぼすと指摘している。

 

(2)「韓米同盟の第一目的は戦争の抑止だ。これまで北朝鮮が戦争を起こせなかったのは、韓国軍の反撃で政権が崩壊しかねないという恐怖があったからだ。ところが、抑止の中核である反撃演習はせずに防御演習だけやるとなると、北朝鮮が「駄目でもともと」という誤った判断の下に戦争を起こす可能性は大きくなるに決まっている。昨年6月の(米朝)シンガポール会談以降、合同演習が中断されたのに続いて、(昨年)9月の平壌会談後は韓国軍単独の演習すらきちんとできずにいる。加えて、将兵の精神武装と軍の綱紀の緩みも深刻だ。韓国人の目前に、実質的な武装解除が一気に迫ってきた」。

 

反撃演習をせずに防御演習だけやる。これは、日本の専守防衛スタイルである。安全保障体系から言えば、あり得ない奇形だ。文大統領は、この日本型をやろうとしているが、韓国軍の弱体化を一気に進める恐ろしい考えである。文氏は、韓国軍の弱体化を正恩氏に約束したのだろうか。南北統一を、北の主導の下に行なわせという準備を始めたとすれば、文氏は大変な裏切り行為になる。まさに、「国家反逆罪」に匹敵する重罪であろう。

 


(3)「米国は、『訓練されていない軍隊は戦場に投入しない』という原則を持っている。勝利の可能性も低く、準備のできていない兵士を死へと追いやることは非倫理的行為だという理由からだ。合同演習・訓練の中断が続けば、米国内で在韓米軍の撤収と韓米同盟の解体を求める世論に拍車が掛かることもあり得る。正常な国の中で、防御だけをやる『専守防衛』を採択している国はない。日本は例外的に、憲法9条で戦争放棄や交戦権否定などを盛り込んだ、いわゆる『専守防衛』原則を明示し、国軍ではなく自衛隊を保有している。最近、安倍政権は『普通の国』化を目標にこれを脱しようと努め、米日同盟の強化に余念がない」

 

韓国軍が、今後とも合同演習・訓練の中断が続けば、弱体化は確実に進む。米軍は、こういう韓国軍と運命を共にする考えがないので、いずれ在韓米軍の撤退論に結びつく。現政権は、それを狙い、南北統合を進めるとすれば、保守派から厳しい巻き返しを受けるに違いない。

 

文政権は、韓国の国益確保第一なのか。北朝鮮を含めた朝鮮半島の利益を優先するのか。その場合、韓国は北朝鮮優先による不利益を我慢するコンセンサスができるか。文政権には、北朝鮮の利益優先で進む気配を感じる。韓国国民は、この動きを監視すべきだ。