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米国が、中国製品2000億ドル相当に25%関税をかける。中国がこれに報復すべく、6月1日から対米輸入品600億ドル相当に、最大25%関税を発表した。だが、米国の2000億ドルに対して、中国は600億ドルである。3分の1に満たず劣勢だ。

 

そこで、中国保有の米国債1兆1000億ドルのうち、幾ばくかを売却して一矢報いようと策を練っているという。こういう類いの話はよく出てくる。本欄でも何回か取り上げたように「下策」そのもの。米国債市場の厚みを知らない田舎者の思いつきに過ぎない。すぐに何ごともなく終わってしまう話である。

 

米国へ報復することよりも、もっと切実な問題が持ち上がってきた。人民元相場が1ドル=7元割れを起こせば、中国から資本流出が起こる懸念が強まる。虎の子の外貨準備高が3兆ドル台を割れば、後は一気呵成で流出に加速がつく。中国の正攻法は、米中貿易戦争を早く終わらせ、正常な状態に戻ることだろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付け)は、中国の対米報復 米国債売却は打撃にならず」と題する記事を掲載した

 

(1)「中国は11000億ドルの米国債を保有しているが、これを売却して米国債市場に冷水を浴びせる可能性をちらつかせている。だが、米企業を手当たり次第にたたくほうが、ドナルド・トランプ大統領の打撃になりそうだ。中国メディアは13日、トランプ政権の追加関税に対する報復として、当局者が米国債を使って影響力を行使する可能性があると報じた。中国は600億ドル相当の米国製品に対する報復関税も発表済みだ」

 

米国債市場は、1日当たり20兆ドル以上の規模とされている。中国が仮に、1000億ドル単位で米国債を売却しても、大きな影響を与えて市場動向を左右することはないというのが定説である。中国は思い上がっている感じだ。

 


(2)「中国は自国が被っているほどの強力な一撃を放つことができずにいる。米国は中国に比べ輸出への依存度がはるかに低いためだ。米国債市場を巡る脅威は現実離れしている。2015年と16年には、諸外国が近年みられなかったほどの急速なペースで米国債の売却を継続した。より高い利回りの投資先を探すポートフォリオ戦略の一環だった。これを受け多くの投資家が、米国債市場が売りに耐えられなくなると懸念を強めた。だが、そうはならなかったし、そうなりそうな見込みも全くなかった」

 

米ドルは基軸通貨である。世界で唯一の存在だ。その米国の発行する国債が、世界一の信用力を持つのは当然である。昨日や今日、浮上してきた中国が報復を考えるにしては、米国という国が桁違に大きい存在なのだ。こういう認識を欠く点が、中国に悲劇をもたらすであろう。

 

(3)「国債価格はたいていの場合、中銀の政策金利を巡る投資家の予想に左右される。世界で最も流動性の高い米国債では特にそうだ。大量に売却されても、価格の変動は短期的なものにとどまる。16年に米国債が市場に溢(あふ)れた際も、数カ月にわたって少しばかりの影響を及ぼしたかに見えたが、程なく吸収された。今回は、中国との緊張関係を背景に投資家が利下げを予想し、米国債に買いを入れている。利回りは価格と反対方向に動くが、10年債利回りは足元で2.4%近辺に低下している」

 

国債価格は、中央銀行の政策金利をベースにして形成される。米国債の場合は、特にFRBの動向がカギを握る。中国が米国債をまとめて売却しても、それは市場要因の一つ程度の問題である。最近は、FRBの利下げを織りこんで国債が買われている。

 

(4)「中国にとってさらに状況を複雑にしているのは、外貨準備の運用において安定性と流動性の面で米国債が最も便利な資産であることだ。中国当局が利益を保管するための他の資産を探すのは難しいだろう。海外利益を国内に還流させれば人民元を押し上げるため、米国の関税に加え、輸出業者がさらなる問題に直面することになる」

 

中国にとって、米国債が安定性と流動性において必要不可欠な資産である。それを米国への報復で売却するとは、理性を失った行動として世界の笑いものにされるだけ。「世界の田舎者」というレッテルを貼られるのだ。