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中国は、米国トランプ大統領の強硬姿勢に翻弄されている。習近平国家主席は、先にロシアで、「トランプ氏は、私の友人」と軟化を呼びかけたほど。「お手柔らかに」というメッセージでもあろう。そのトランプ氏は、ここを先途と攻め立てている。

 

トランプ氏は10日、G20での会談に習氏が応じない場合、中国からの輸入品約3000億ドル(約32兆5600億円)相当に「25%よりはるかに高い」関税を賦課する可能性があると述べた。直前まで会談の詳細を明かさないことの多い中国外務省は、会談の有無についてコメントを控えている。

 

苦境に立つ習氏に対して、『ブルームバーグ』(6月12日付)は、次のような見立てだ。

 

「中国指導者として過去数十年間で最も強大な権限を手にした習主席でさえ、就任後6年間で最も厳しい立場に追い込まれている。トランプ氏の脅しに屈せば、国内で弱腰と見られるリスクがある。会談を拒めば、トランプ氏は貿易対立を2020年の大統領選挙まで引き延ばす公算が大きいため、中国は経済的なコストを支払わされる」

 

米国が、第4弾3000億ドルの関税を25%以上にしたら、中国経済の受ける損害は「破滅的」になる。サプライチェーンの移転は大掛かりなものになり、「産業空洞化」は必至だ。G20までこれから半月余りになったが、中国はどう対応するのか。元相場への影響が注目を集めている。

 

『ロイター』(6月11日付)は、「中国当局、用心しつつ人民元の防衛姿勢後退か」と題するコラムを掲載した。

 

中国当局は、人民元相場で超えてはならないと考える節目がどこなのかを曖昧にさせる方向に姿勢を変化させている。これまで暗黙の防衛線であった1ドル=7元についても、その水準はもはや守らないと示唆している。一方で、当局者は元売りポジションを持つ投資家に多額の損失を発生させる可能性もちらつかせている。

 

(1)「米政府がさらなる対中関税を発動する可能性があるなか、中国当局が市場の期待値をリセットしたうえで、特定の水準にこだわらないという姿勢を打ち出すのは賢明な動きだ。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は前週、ブルームバーグとのインタビューで、元相場に超えてはならない一線はあるかとの質問に対し、特定の「数値」が他より重要というわけではないと語った。人民銀前総裁の周小川氏は前月27日、非公開のラウンドテーブルで、1ドル=7元を最低ラインと考えるのは「過剰反応」の可能性があると指摘したと中国の金融誌「財新」が報じている。周氏は「変動という観点では、数値は誤解を招く可能性がある」と述べたという」

 

中国当局には、すでに1ドル=7元を死守する意思はなくなっている。

 


(2)「ただ、防衛姿勢を否定する発言をしながらも、中国の金融当局者は市場への介入を継続している。投資家はそれを知っているため、当局者が超えてはならない一線を後退させていると察知すれば、元売りが加速し、それが景況感にも波及することになる。一例としては、2015年に人民銀は人民元の切り下げによって多額の資本流出を引き起こし、通貨防衛に1兆ドル相当の外貨準備を投入した」

 

手綱を緩めながらも締めるという、微妙な為替操作をする意向である。

 

(3)「トランプ米大統領が3000億ドル分の中国製品に最大25%の関税を課す提案を実行に移した場合、中国の米国向け輸出への影響を完全に相殺するために元相場は10%余り下落する必要があるかもしれない。これは、1ドル=7.5元を突破し、2007年以来の元安水準を付けることを意味する。実際はそれほど下落しないだろうが、資産価格や投資フローへの影響は依然として大きい。防衛姿勢の後退を示唆する当局の方針は理にかなっている。突然の通貨急落に意表を突かれたと見なされるよりも、今のうちに期待値をリセットするのが賢明だ。無論、当局者にとってリスクとなるのは、元安派がどちらにしても儲けるということだ」

 

中国が人民元安で関税引き上げ分を乗切ろうとすれば、米国が「為替操作国」に指定してくるので露骨な人元安にするわけにはいかない。外貨流出という恐ろしい「罰」も待っている。いずれにしても、中国は茨の道である。習氏の民族主義が招いた災難である。