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文在寅(ムン・ジェイン)氏の政治行動を見て気付くのは、中国や韓国の宗族パターを色濃く残している点です。宗族とは、同一祖先の父系血縁で共同して活動する。そういう地域的な集団を言います。一族とか一門です。

 

文氏は、「文一族」を率いているわけでありません。文政権の支持層である労組と市民団体が、擬製の「文一族」に加わっています。宗族社会の掟では、族長は一族の利益を図る義務を負っています。この義務を果たさない族長は、内部で尊敬されません。

 

歴代の韓国大統領が、賄賂事件に巻き込まれています。これは、「宗族社会」と深いつながりのある問題です。一族から頼まれごとをしたら、暗黙裏にそれを実現してやる義務を負わされます。それを叶えてやることで、族長の人気が高まるのです。

 

文氏は、文一族の労組に最低賃金大幅引上げを叶えてあげました。市民団体には、脱原発を実行して、自然エネルギー事業で補助金をたっぷりと取らせて希望を実現しました。文氏は、族長としてすべて「約束」を実現したのです。

 


「文一族」が、これからどうするのでしょうか。国内政治の舵取りを変えずに、このまま突っ走って行けば、韓国経済は破綻します。ここで政策転嫁すべきですが、その可能性は消えました。大統領府の経済人事の「たらい回し」を行ったのです。

 

  文大統領が21日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)の「経済ツートップ」、金秀顕(キム・スヒョン)政策室長と尹ジョン源(ユン・ジョンウォン)経済首席秘書官を同時に交代させました。後任の政策室長には金尚祖(キム・サンジョ)公正取引委員長を、経済首席秘書官には李昊昇(イ・ホスン)企画財政部第1次官をそれぞれ任命したのです。

 

 金秀顕前室長は、文在寅政権の発足と同時に青瓦台社会首席秘書官を務め、脱原発や不動産など社会全分野を掌握したため「王首席」と呼ばれました。昨年11月に張夏成(チャン・ハソン)初代政策室長の後任に抜てきされると、「王首席が王室長になった」という声があったそうです。でも結局は、「衆寡敵せず」奮闘虚しく、期待のエースは7カ月で交代することになったのです。

 

誰が、経済政策を担当してもうまく行くはずがありません。この政策(最賃大幅引上げと週労働52時間制)を修正しない限り、担当者はすべて枕を並べて討ち死にして当然でしょう。「文一族」の利益第一主義を図る設計図が、そもそも間違っているのです。

 

文氏は、この設計図を変える勇気があるでしょうか。残念ながら、その勇気はありません。文氏は学校秀才です。記憶力抜群で、世の中を渡って来ました。弁護士稼業も、記憶力の優劣が条文の適用で、勝負を決める世界かもしません。

 

政治は、「応用力」の世界です。学校秀才が挑戦する分野ではないのです。文氏は、「職業としての政治家」像からかけ離れているように思います。文一族の族長として、「政治によって生きている」のが文大統領です。

 

文大統領は、「政治のために生きる」べきです。文一族の族長を捨てて、国民のために身を捧げる決意をすることです。たらい回し人事でなく、現在の経済政策を捨てるべきです。韓国は、畑違いの大統領を選んでしまいました。その不幸を互いに嘆くほかないでしょう。