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習近平氏は、憑かれたように「世界一の軍隊」をつくり上げることに熱中している。軍隊は「金食い虫」である。習近平氏は2017年に、2035年までに国防と軍隊の現代化を基本的に実現し、2049年までに「世界一流の軍」を完成するという明確な目標を定めた。どれだけの軍事費をつぎ込まなければならないか、膨大な予算を必要とする。

 

だが、これから急ピッチで進む人口高齢化と潜在的なGDP成長率低下を考えれば、軍事費捻出で困った事態になることは明白だ。これまで打ち出の小槌であった不動産バブルは、賞味期限切れに近くなっている。この反動で、景気が長期停滞に追い込まれれば、「大砲よりバター」という究極の選択を迫られるはずだ。

 

英誌『エコノミスト』(6月29日号)は、「習氏の軍改革、中国の夢実現へ 」と題する記事を掲載した。

 

習近平国家主席が自ら掲げる「中国の夢」の一つが「強力な軍隊」だ。35年までに軍を近代化し、50年までに「世界トップクラス」に引き上げるという。つまり、米国を打ち負かす水準にするということで、習氏はその目標達成に向け着実に前進している。

 

中国が模範とする米国は、86年のゴールドウォーター=ニコルズ国防総省再編法に基づき、統合性を高める大胆な軍改革を進めた。米国防総省は、世界を7つの地理的範囲に分割し、米軍を各地域の責任を持つ7つの統合軍に再編した。これで陸海空軍の間の争いはなくなった。ペルシャ湾や太平洋など各地域に駐留する全ての軍人は、その統合軍司令官1人の指示で行動することになった。

 

(1)「習氏もこれにならった。改革前は、中国には7つの軍区が存在し、各軍区の陸海軍司令官がそれぞれ本部に報告していた。そのため陸海軍間の相互調整は無いに等しかった。だが2016年2月に軍区を5つの「戦区」に再編し、それぞれに司令官1人を配置した。

江蘇省南京が本部の「東部戦区」は、台湾や日本との戦争などに備え、

四川省成都に本部を置く広大な「西部戦区」はインドに対応し、

広東省広州が拠点の「南部戦区」は南シナ海を担当する」

 

中国軍は、米軍だけでない。台湾や日本と戦う。インドとも戦う。さらに南シナ海でという具合に腹背に敵を受ける構造である。だが、こういう「孤軍奮闘」で勝てると思っているところが「常識外れ」であろう。そのためには莫大な軍事費と兵士が必要だ。今の処は財政問題が登場していないが、今後の重要な課題となってくるはずだ。

 

(2)「これら地理的戦区に加え米国の弱点を突くため、15年には戦区をさらに2つ新設した。米軍の通信は人工衛星やコンピューターネットワークなどハイテク手段に依存している。そこで習氏はこれらのシステムを標的とする「戦略支援部隊」を立ち上げた。宇宙戦、サイバー戦、強い電磁波を攻撃に使う電子戦や心理戦を担当する」

 


(3)「中国は40年間戦争をしていないので、戦闘熟練度が上がったか判断するのは難しい。最後の大規模紛争となった79年の中越戦争に従軍した兵士はもうすぐ退役する。だが、統合性が向上している証拠はある。中国は台湾周辺や南シナ海で戦闘機を頻繁に飛行させるなど領域外活動に力を入れているが、これは空軍と海軍の調整の深化を示す。ワシントンにある米国防大学のフィリップ・ソーンダース氏は「各軍は頻繁に合同訓練をし、組織的な問題点を解決し、互いがより結束して戦えるようにしている」と指摘する」

 

79年の中越戦争を最後に、実戦経験の兵士が間もなく退役すれば、オール戦争未経験者になる。この穴を埋めるべく台湾周辺や南シナ海で戦闘機を飛ばした海軍との演習を頻繁に行っている。

 

(4)「中国軍は複雑な戦闘には依然、準備不足かもしれない。米国では士官の昇進は、他の軍と協力する能力で決まる。中国では1つの軍、1つの地域、場合によっては1つの任務しか経験しない軍人が多い。政治的文化の違いも問題となる。「中国は西側諸国の軍隊をモデルに改革しようとしているが、それらの軍の構造には開放性や権限委譲、協力が浸透している」18年に米海軍太平洋艦隊司令官を退任し、今はマサチューセッツ工科大学で教えるスコット・スウィフト氏は話す。サイバー戦や電子戦では司令部と部隊の通信が遮断されることがあるため、現場で決定することが今の戦いでは要求されるという。「民主主義の原則に基づいて作られた軍隊の方が、こうした環境にはうまく対応できる」と同氏」

 

このパラグラフは、中国軍の弱点として指摘されている面である。中国軍の陸軍将校を例にとろう。将校になる前、彼らの主な活動は1つの軍区に限られていた。「広い見方を持っていないため、どのように全体の共同作戦を展開し、指揮するかを知らないだろう」と言われている。

 

中国の軍事改革のひとつの焦点は、共産党による軍の統制の強化である。中国軍では、政治将校が常駐して思想教育を行っている。これが、すべて「指示待ち」兵士を生み出しており、戦況に応じて自由自在な戦闘体系を組めない点で限界があると指摘されている。また、兵士は農村部出身者が圧倒的である。高等教育を受けた兵士の少なさが、中国軍の弱さになっている。「一人っ子政策」が、皮肉にも弱い兵士を生み出した背景にあるのだ。