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米中貿易戦争の長期化が、はっきりするともについに為替相場へ波及し始めてきた。中国が5日、人民元相場について1ドル=7元割れを容認したからだ。米国が、9月1日から第4弾として3000億ドルに10%関税を引き上げることへの対抗と見られる。

 

この人民元7元割れは、アジア通貨安を誘っている。円相場は逆に代われて円高になった。韓国国の1ウォン1200ウォン割れも人民元安の余波である。

 

『ブルームバーグ』(7月5日付)は、「中国が反撃、人民元安と農産物輸入停止ートランプ氏は為替操作と非難」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米大統領の関税計画に対し、中国側も貿易戦争を激化させる行動で反撃した。1ドル=7元を超える人民元安を容認するとともに、国有企業に対し米国産の農産物輸入を停止するよう要請した。

 

1ドル=7元を超える元安は、おそらく意図的なものという見方が有力だ。トランプ米大統領の関税発表後というタイミングと辻褄が合うからだ。関税に対する中国側の報復手段の選択肢が多くないことを考えると、為替が最も強力なツールというもの。米中貿易戦争が、人民元安という報復を呼べば、アジア通貨安のリスクが高まる。円は、逆行して買われる通貨だ。

 

(1)「トランプ大統領は米時間5日朝ツイッターで、「為替操作」だと非難。「時間とともに中国をひどく弱体化させるだろう」と記した。大統領はかねて米国産農産物の輸入を増やす約束を守っていないことでも中国を批判している。米中対立の長期化見通しから、5日のアジア市場では株式相場と通貨が下落、安全資産と見なされる円や米国債、金(ゴールド)は値上がりした。投資家は米利下げ幅の見通しも拡大させた

トランプ大統領は、怒りの余りさらなる対応を通るのか。ただ、泥沼に入るリスクが高まる。中国経済は、一段と苦境に向かう。

 


(2)「ラボバンクのアジア金融市場調査責任者マイケル・エブリー氏は、「これは最悪のシナリオの1つだ」とし、「まず市場で一斉売りが起こり、トランプ大統領が朝起きれば、事態はさらにずっと悪くなる」と話していた。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁はアジア時間5日夕に声明を出し、同国は貿易紛争に対処する手段として為替相場を活用することはしないと表明。「外的要因による最近の変動にもかかわらず、人民元が強い通貨であり続けると確信している」とした上で、外国為替への企業と国民の「合理的かつ合法的な需要」を確実に満たすよう中銀が取り組んでいくと付け加えた」

 

中国人民銀行は、意図的な元安誘導でないとしている。だが、米国の第4弾として3000億ドルの関税10%は、普通であれば耐えられないレベルだ。

 

(4)「中国の公営メディアは論説で、米国による懲罰的関税を保持したり、共産党の権限を弱める可能性のある国有企業などの問題に関し譲歩を迫ったりするいかなる合意も習近平国家主席(党総書記)は拒否すると示唆した。中国の態度硬化はトランプ大統領が合意の相手方として信頼できず、民主党大統領の誕生を待った方が良いという中国政府の認識の高まりを示すものだ。農産物輸入停止は2020年の大統領選挙を控えたトランプ大統領への打撃となり得る」

 

米中貿易戦争は、人民元安誘導で最悪事態に一歩、踏み入れた危険性が高まっている。1ドル=7元割れは、08年のリーマンショック以来のことだ。この裏には、中国の経常収支赤字が、現実問題として中国を追い詰めていることも考えられる。「非常事態」と見た方がいいであろう。